小野寺系の「2025年 年間ベスト映画TOP10」 変容する節目を迎えている“映画”という文化

小野寺系の2025年ベスト映画TOP10

 一方、コロナ禍以降にとくに躍進した配信業界は盛況で、Netflixによるワーナー買収交渉という象徴的な事態も起きている。パラマウントも買収に乗り出したことで、原稿を書いている現在、この騒動の行方は不透明となっているが、「映画」という文化が大きく変容する節目を迎えていることは間違いないだろう。

 そういう不安づくめの状況下において希望を語る部分があるとすれば、やはり作り手それぞれの“創造性”に他ならない。『ワン・バトル・アフター・アナザー』や『ブラックバッグ』は、個性的なベテラン監督の能力が、娯楽性とアートの中間地点で見事に発揮された作品だった。市場の分析により売れる企画に資金が流れ、AIのシンギュラリティによって人間の創造性が毀損されるおそれがあるなか、監督の演出力という部分で突出した映画には、代え難い本質的魅力が存在する。

『ワン・バトル・アフター・アナザー』の圧倒的な映画体験 その巨大な魅力を多角的に考察

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 2025年にカリフォルニアで起きた大規模な山火事はロサンゼルスにも及び、ハリウッドの映画産業にも大きな影響を与えた。山火事からの避難により、『ロスト・ハイウェイ』(1997年)の撮影に使われた、あの邸宅から避難したことで病状が悪化したというデヴィッド・リンチ監督が亡くなったことは、映画界の大きな損失だった。

 筆者の2025年の1位は、2018年のカリフォルニアでの山火事での実話を題材にした、ポール・グリーングラス監督の『ロスト・バス』とした。地獄の炎としか言いようがない火災の風景を、これまでにないリアルな表現で描いた映画史的な傑作が、Apple Studios製作というのは、この時代を象徴してもいるかもしれない。ここで描かれた、全てが灰となった火事の被害の景色は、筆者が津波の被災地で見た、地平線まで瓦礫で埋め尽くされた世界を思い起こさせた。

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 気づいたら火の手が迫り、避難者たちの情報が錯綜するなかで、小学生たちを乗せたまま山の上で立ち往生するスクールバスの窮状は、筆者を含め迷いや混乱の現在を生きる人々の姿にも見えてくる。それでも、バスは命を乗せたまま炎の中を突き進む。厳しい状況にある全ての善良な人々が、いつか「映画」を心から楽しめるような、安全で健やかな場所へと辿り着いてほしい。そういった思いも込めながら、優れた作品ばかりのベスト10を作成した。

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