『べらぼう』が大河ドラマだからこそ描けたこと 一橋治済の最期に詰まった“物語の強度”

『べらぼう』が大河だからこそ描けたこと

 近年のテレビドラマは現実の社会問題や政治的なテーマを扱うことで作品の強度を高めてきたが、このやり方は諸刃の剣で、扱ったテーマに対する議論の方が物語の面白さを上回ってしまい、物語の面白さを壊してしまうことも少なくない。

 社会的テーマを描くことの敷居が以前より下がってきている現在だからこそ、器としての物語の強度が問われる時代になってきていると近年は感じるのだが、『べらぼう』は何より物語であろうという意思がとても強い。それがもっとも大きく表れていたのが、一橋治済(生田斗真)の描かれ方だ。

 平賀源内の死に治済が関わっており、治済の手で多くの人間が毒殺されていることを松平定信から知らされた蔦重は、これまで対立関係にあった松平たちと共闘して治済を討つことになる。

 森下佳子は、よしながふみの漫画『大奥』(白泉社)をNHKでドラマ化した際に脚本を担当している。『大奥』は男女の立場が逆転した江戸時代を描いたSF時代劇で田沼意次や平賀源内の性別が史実と逆転して登場するのだが、治済も女性として登場し仲間由紀恵が演じていた。

 『べらぼう』の治済は史実通り男性だが、何を考えているのかわからない不気味な悪役として描かれていた。毒で邪魔な人間を殺し続けたのも、権力闘争の手段と言うよりは毒殺自体が目的化しているように見えて、毒殺という行為自体を楽しんでいたようにも見える。

 第46回では、お祭りで松平定信の一派に振る舞われた饅頭に毒を仕込み、食べた者たちがバタバタと毒で倒れていく場面が描かれたが、食べ物に毒を仕込むという行為をここまで凶悪だと感じたのは初めてで「食」という行為自体が冒涜されたようにも感じた。

 最終的に治済は、お茶に眠り薬を入れられて、眠っている間に替え玉とすり替えられて島流しとなり、逃走中に落雷で死ぬという派手な幕引きとなった。

 治済の描き方は荒唐無稽で、史実を元にした歴史ドラマとして『べらぼう』を観てきた視聴者ほど困惑したのではないかと思うが、筆者はこの結末が痛快だった。物語の世界に徹底して閉じこもることでしか描けないことがあることを、落雷で死ぬ治済を観て感じた。

■放送情報
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』総集編
NHK総合、BSP4Kにて、12月29日(月)放送
巻之一:12:15〜
巻之二:13:05〜
巻之三:13:48〜
巻之四:14:31〜
巻之五:15:20〜

出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、橋本愛、井上祐貴ほか
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志

『最終回!ありがた山スペシャル ~パブリックビューイング&トークショー~』
NHK総合、BSP4Kにて、12月29日(月)16:03〜放送
出演:横浜流星、染谷将太、橋本愛、中村蒼、風間俊介、高橋克実、鈴木奈穂子アナウンサー

写真提供=NHK

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる