『べらぼう』森下佳子の予想を超えた橋本愛 「あの眼鏡が似合ってしまう人がいるなんて」

『べらぼう』最終回・森下佳子インタビュー

 横浜流星が主演を務める大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK総合)がついに最終回を終えた。稀代のメディアプロデューサー・蔦屋重三郎(横浜流星)と、彼を取り巻く江戸のクリエイター、そして政治家たち。それぞれの“意地”と“分”がぶつかり合う群像劇は、放送を重ねるごとに熱狂的なファンを増やしてきた。脚本を担当した森下佳子に単独インタビューを行い、物語後半で描かれた「かつての敵との共闘」という胸熱な展開の意図や、蔦重の妻・てい(橋本愛)というキャラクターの誕生秘話、そして最終回に込めた思いについて聞いた。

てい(橋本愛)は女性版・松平定信(井上祐貴)

――大いに楽しませていただいた全48回でした。特に物語の後半、かつて敵対していた松平定信(井上祐貴)と蔦重たちが、形を変えて手を組むような展開には非常に興奮しました。どこか『少年ジャンプ』的な王道の熱さを感じたのですが、このあたりは意識されていたのでしょうか?

森下佳子(以下、森下):やっぱり「『少年ジャンプ』は永遠」だと思っていますから(笑)。「最後は王道で行きたい」という思いはありました。「かつての敵」とはいえ、定信も元を正せば、本が好きでたまらない「希代のオタク」だったわけじゃないですか。そういう意味では、最後に彼らが馴染んでいく、集まっていくという展開は、説得力を持って描けるのではないかと思いました。

――定信というキャラクターは、教科書的なイメージとは裏腹に、本作では非常に人間臭く、ある種の“苦しみ”も抱えた人物として描かれていたのが印象的でした。

森下:定信は人としてすごく面白いんですよ。本人は「面白い」と言われたら怒るでしょうけど(笑)。彼は本当にいろいろな政策を出して、風紀粛清や倹約令など、いつ寝ているんだろうと思うくらい精力的に活動しました。でも、やればやるほどだんだん孤立していってしまう。組織人としては、不器用でかわいそうな人でもあるんですよね。年齢を重ねて下に後輩ができたり、役職として上の立場になると、どう振る舞っていいかわからなくなるときがあったり、怒ってもらえなくなったりする。そんな定信の苦しさには、共感できる現代人も多いのではないでしょうか。蔦重のような天才肌は参考になりづらいですが、定信のような悩み多き人物の方が、組織に生きる人には響くのかもしれません。

――キャラクターの配置という点では、蔦重の妻となったてい(橋本愛)の存在も絶妙でした。彼女はどのようにして造形されたのでしょうか?

森下:ていに関しては、史実には具体的な人物像が残っていないんです。だからこそ、「蔦重の隣にどんな人がいたら一番いいんだろう?」と逆算して考えました。最後まで添い遂げる夫婦として、蔦重の隣に誰を置くか。そう考えた時に出た答えが、「定信」だったんです。

――まさかの定信ですか(笑)。

森下:はい(笑)。「定信みたいな考え方をする人が、蔦重の隣にいた方が絶対にいい」と思ったんです。だから彼女は、漢書が読めたり、ふざけたことはしなかったりと、どこか定信のような真面目な要素を持たせました。

――なるほど。破天荒な蔦重と、定信的なてい。非常に対照的でバランスが良いですね。演じられた橋本愛さんの眼鏡姿も話題になりました。

森下:ていの眼鏡姿には私もビックリしました! 橋本愛さんって、ものすごくお綺麗なんですけど、目力が強くてクールな印象もあるじゃないですか。それが、あの丸眼鏡をかけることで、ちょっと縁に隠れて黒目がちに見えて、「あれ、かわいくなってる!」と(笑)。美人な方面から、親しみやすいかわいい方面へと印象が変わっていて、蔦重との相性や収まりもすごく良くなったなと感じました。あの眼鏡が似合ってしまう人がいるなんて……。実際に映像を見たらとても素敵でしたけどね。

――橋本さんを含め、今回のキャストの皆さんは本当にキャラクターにピタリとハマっていた印象です。

森下:本当に皆さんの力のおかげです。役者さんたちが生き生きとキャラクターの良いところを見せてくださいました。みなさん経験豊富な方ばかりなので、こちらが細かく言わなくても「うまくやっていくしかないよね、破綻しないように目配せしておきましょうね」というような阿吽の呼吸があったのだと思います(笑)。安心して見ていられました。

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