『鬼滅の刃 無限城編』の完成度は期待以上 猗窩座戦ラストのアニメ演出に涙が止まらない

『無限城編』猗窩座戦ラストの演出に涙

 『鬼滅の刃』(原作:吾峠呼世晴)のアニメシリーズが結末へと向かう最初の扉が、7月18日に映画『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』として開かれた。原作のストーリーをしっかりと描きつつ、物語に厚みを持たせ、アクションの迫力を増し、声優たちの演技で魅せる極上の映画になっていて、観た人の誰もを慟哭と感涙にまみれさせる。

 すべて知っている物語だ。漫画で読んで次に何が起こるかを知っていて、決着に至るまで頭に入っている物語だ。それなのに見入ってしまう。固唾を呑んで見守ってしまう。起こっていることに目を見開いてしまう。一瞬たりとも見逃せないと意識を全集中してしまう。

 『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』はそれほどまでの魅力と威力を持った映画だ。

 『鬼滅の刃 柱稽古編』の終わりで産屋敷邸を襲撃した鬼舞辻無惨は、お館様の捨て身の攻撃によって傷を負う。珠代の開発した、鬼を人間化する薬も食らって大いに弱るが、そこから鳴女の血鬼術で反撃し、鬼殺隊の隊士たちを竈門炭治郎や我妻善逸、嘴平伊之助に柱たちも含めて無限城へと引きずり込んだ。ここから続く『無限城編』は文字通りに無限城を舞台にした戦いが繰り広げられる。

 『猗窩座再来』は、三部作になる『無限城編』の第一章で、原作どおりに胡蝶しのぶと上弦の鬼の弐に位置する童磨との戦いや、炭治郎・水柱の冨岡義勇のコンビと上弦の参の猗窩座との決着が描かれる。その間に善逸も上弦の鬼と単独で戦うという、原作の展開を知らない人には驚くしかない展開が挟まれる。

 この3つの戦いのそれぞれが、漫画のコマ間を繋ぐように登場人物たちの心情でありといったものが作り込まれ、アニメならではのアクションも足されて立体感を増したものとなっていて、原作を知っている人でも大いに楽しめる。

しのぶの“怒り”、善逸の“余裕”が圧巻の演技

 例えば、しのぶと童磨の対決では、無限城に落とされたしのぶが導かれるようにして童磨が待ち受けている場所へと向かうシーンが足され、その後に何か大変なことが起こりそうだと身構えさせる。対面した童磨が自身の姉の仇だと気づいたしのぶが怒りを燃え上がらせ、激情を放っていく姿に、観客も気持ちを引っ張られ昂ぶらせられる。

 しのぶを演じる早見沙織の声も凄まじい。蝶屋敷での優しくて頼もしげな雰囲気からガラリと変わり、心の底に溜めていた怒りを言葉にして吐き出して童磨にぶつける。原作では第6巻、TVアニメでは第24話「機能回復訓練」に、炭治郎が蝶屋敷の屋根の上でしのぶに「怒ってますか?」と尋ねたシーンがあった。このときのしのぶは、姉を鬼に殺されたことを語り「怒っているかもしれない」と言いつつ、激情を表に出すことはなかった。

 映画では、このときのやりとりが再登場し、本当の怒りというものを見せる。感情がコントロールされた場面から本当の自分を120%あらわにする場面まで、それぞれの場面にベストの演技を載せてくる早見の才能を、存分に浴びることができる戦いだ。

 加えて、アクションにおいても、しのぶの鋭い刺突が描かれ那田蜘蛛山で見せた以上の体捌きも見せてくれる。漫画では止まっている絵がアニメでは速度も激しさもしっかりと描かれ、さすがは柱といった強さを見せてくれる。もっとも、それでも上弦の鬼は強く、戦いは厳しいものとなる。結果については言及を避けるが、本編を観てしのぶが抱いた怒りについて体感してほしいと言っておく。

 続く善逸の戦いも、映像として申し分ない。ここで触れておくことがあるとすれば、決して眠らず途中で弱音も吐かない善逸の圧倒的なカッコよさを、下野紘が完璧に演じきっているということだ。怒りを抱えて鬼と対峙し、激情を放ち挑発までする善逸など、ここに至るまでほとんど観たことがなかった。映画を観終わったときにグッズ売り場でしのぶや義勇、そして猗窩座のグッズが選択肢に入っていた人に、善逸も加えたいと思わせるほどの活躍ぶりだ。

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