柄本時生の“怪演”が鍵に? 『ばけばけ』『ベビわる』で髙石あかりと生む化学反応

一難去ってまた一難。朝ドラ『ばけばけ』(NHK総合)では、ヒロイン・トキ(髙石あかり)とヘブン(トミー・バストウ)によるユニークな攻防が続いている。言語の壁に苦労しながら、うらめしくも美しいこの世で、ふたりは特別な関係性を築き上げようとしているところだ。そこへまた、新たなキャラクターが登場する。彼の名は山橋才路。演じているのは柄本時生である。
この『ばけばけ』とは、小泉八雲とその妻のセツをモデルにした物語を描くもの。誰もが知る『雪女』や『耳なし芳一』などの怪奇譚がどのようにして生まれ、時代を超えて私たちにまで語り継がれることになったのか。この作品が教えてくれるのだろう。第8週「クビノ、カワ、イチマイ。」は、タイトルどおりのものになりそうだ。トキはヘブンの女中の職からいつ追放されてもおかしくはない。文字どおり、首の皮一枚で繋がっている状態。ヘブンが求めている「beer=ビール」をトキは手にすることができるのか。

おそらくここで初登場を果たすのが、柄本が演じる山橋才路だ。なぜなら彼は松江で唯一の舶来品店・山橋薬舗の店主だから。舶来品店ならば「beer=ビール」も取り扱っているに違いない。トキとヘブンも足しげく通うようになるらしく、海外の文化に触れている山橋才路はこの夫婦にとって、これからの展開のキーパーソンになるのではないか。
本作の制作統括を務める橋爪國臣は、「ミステリアスでありながらどこか親しみやすい男」とこのキャラクターについて言及したうえで、「時生さんの“怪演”が光る」と述べている。かなりクセの強い人物なのだろうか。たしかに、番組の人物紹介ページには「実は店主以外にも、“裏の顔”を持っている」と記されている。柄本が“怪演”によって体現する、“裏の顔”を持つ舶来品店店主ーー。また『ばけばけ』の世界にひと波乱ありそうで、俄然楽しみになってくる。
柄本が「朝ドラ」に出演するのは、『おひさま』(2011年度前期)以来14年ぶりのことだ。ヒロイン(井上真央)に対して密かに想いを寄せる幼なじみを演じ、柄本の実母である角替和枝とも親子役での共演を果たした。当時の彼の瑞々しい好演を、いまだに覚えている人も多いのではないか。当時の柄本はまだ20代前半。彼自身の若手時代のキャリアにおいて、重要な一作となっているのではないだろうか。
あれから14年。『ばけばけ』では完全に脇に回り、作品をより盛り上げるような役どころを担うことになりそうである。柄本が髙石と共演するのは、髙石が主演を務めたドラマ『ベイビーわるきゅーれ エブリデイ!』(2024年/テレビ東京系)に続いて2度目のことだ。同作は2021年にはじまった映画『ベイビーわるきゅーれ』シリーズに連なるもので、柄本の登場はこのドラマ版から。映画とドラマではさまざまな違いがあるとはいえ、柄本はすでにできあがった世界観の中に途中から加わったわけだ。

殺し屋たちの日常を描いた『ベイビーわるきゅーれ』と、日本社会が大きく変わる時代の市井の人々に焦点を当てた『ばけばけ』は、あらゆる観点から一切の似たところのない作品同士に違いない。けれども髙石が主演で、柄本が途中参戦で個性的なキャラクターを演じるというのは、ひとつの共通点だといえるのではないか。こじつけのように思われるかもしれないが、実際にこういったケースはそう多くはない。
髙石が中心になって作り上げてきたこの世界観に、柄本がどのような溶け込み方をするのか。そしてこれに触れた髙石が、どう変化していくのか。演技者同士が生み出す化学反応によって、『ばけばけ』はさらなる厚みを得る。そのカギを握っているのが、俳優・柄本時生の存在なのではないだろうか。
■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK






















