『ばけばけ』はかなしくておかしい ふじきみつ彦の手腕が凝縮された「わたしを社長に」

ヘブン(トミー・バストウ)が花田旅館を出て一軒家を借りることになり、女中が必要になった。朝ドラことNHK連続テレビ小説『ばけばけ』の第6週「ドコ、モ、ジゴク。」(演出:泉並敬眞)では、女中とは洋妾のことだと思い込んで、深刻になる錦織(吉沢亮)やトキ(髙石あかり)の右往左往を描く。
女中にうってつけな人物はいる。なみ(さとうほなみ)である。もともと洋妾になりたかった彼女だから、まったく問題はない。はりきってヘブンの面接に臨み、手作り弁当まで持ってアピールする。が、ヘブンは百姓の娘は女中に求めていなかった。彼が求めるのはしっかり躾けられた士族の娘だった。そこでトキに白羽の矢が立った。

ヘブンにとって百姓とはどういう認識なのか。ともすれば、偏見の持ち主なのではないかとも思える言動なのだが、それについては深く描かれていない。
トキは女中――洋妾になりたくない。洋妾は蔑まされるものと聞いていたからだ。雇用者からはこき使われ、周囲からは石を投げられる。そんなものになったら自分もしんどいが、なにより家族に顔向けができないと思うからであろう。錦織に何度頼まれてもトキは首をたてにふらない。
でも、月給が20円と聞けば、心は揺れる。借金の返済が楽になるどころか、暮らしがどれだけ楽になるか。おりしも、借金取りが息子(前原瑞樹)に代替わりし、取り立てが厳しくなったところだ。とはいえ旅館の女中の給金が90銭であることと比較したら、どれだけ破格で、その分、どんなしんどさが待っていることか……。当時の貨幣価値、1円がおよそ3万円から4万円、20円だと月70万円とはなかなかの高給である。

そんなおりトキはタエ(北川景子)が物乞いをしている姿を目撃してしまう。さらに、三之丞(板垣李光人)はタエに言われて、各所に社長にしてくださいと頼みこんではけんもほろろに扱われていた。
武士の家に生まれたふたりは時代錯誤にもほどがあり、昨今の状況がわかっていない。お金を恵んでもらっても頭を下げないし、人に使われるなんてもってのほか、人を使う身分だといまだに思い込んでいた。彼らの悲惨な状況を目の当たりにしたトキは女中を引き受ける決心をする。まさに「ドコ、モ、ジゴク。」の状況だ。

第6週の見どころは、三之丞が「わたしを社長にしてください」という場面だ。「社長となるにふさわしい格を備えております」と、現社長の前で言う厚顔無恥ぶりを発揮する。ナンセンス極まれりという感じだが、当人は至って本気。必死でお願いしているのだった。おかしくてかなしい場面だった。
朝ドラに限ったことではないが、近年、「これではあらすじだ、プロットだ、説明だ、原作をまんま引き写しただけだ」と脚本に手厳しい批評がされることがある。が、『ばけばけ』は違う。脚本家のオリジナルな表現が随所に見られる。




















