『ばけばけ』“第1話”がやってくる! 朝ドラだからこその点と点が線になるカタルシス

現在放送中のNHK連続テレビ小説『ばけばけ』が、今週の放送を含め、いよいよ残り2週間となった。視聴者の間で大きな話題となっているのが、第24週「カイダン、カク、シマス。」の予告映像だ。
「次回、いよいよね」という蛙のナレーションとともに流れた、トキ(髙石あかり)が暗闇の中でロウソクに火を灯し、ヘブン(トミー・バストウ)と見つめ合うシーン。SNSなどでも「ついに第1話の冒頭に戻るのか」と期待の声が高まっている。第120話にして、ついに物語の時間が「第1話」にたどり着くのだ。

第1話で未来の象徴的なシーンを提示し、物語の終盤でその時間軸に追いつく。これは、長年にわたり朝ドラが培ってきた“王道”ともいえる構成だ。朝ドラにおいて、第1話の冒頭は、単なる時系列の入れ替えや予告編とは違う。半年間、全100話以上にわたって視聴者が伴走するための確かな道標としても機能しているといえるだろう。
窪田正孝を中心に製作陣全員が届けてくれた“エール” 『エール』は忘れられない朝ドラに
3月30日に始まったNHK連続テレビ小説『エール』は、本日11月26日の放送で第119話を迎える。すでに発表されているように、第…例えば、2020年度前期放送の『エール』では、第1話で主人公・裕一(窪田正孝)と音(二階堂ふみ)の夫婦が、1964年の東京オリンピックの開会式に向かうシーンが描かれた。そこから時代はさかのぼり、2人の幼少期からの成長と結婚、戦争も経て、音楽家として大成した裕一が「オリンピック・マーチ」を手掛ける。第1話で描かれた“あの日”に、第119話でついにたどり着くのだ。
『あんぱん』の主人公がのぶである意味 アンパンマン誕生で“第1話”に追いつく
NHK連続テレビ小説『あんぱん』第1話の始まりは、晩年ののぶ(今田美桜)と嵩(北村匠海)が登場し、「アンパンマン」が生まれる直前…また、アンパンマンの生みの親であるやなせたかしと妻・のぶをモデルにした2025年度前期放送の『あんぱん』も“第1話回帰”が印象的な朝ドラだ。第1話の冒頭は、晩年ののぶ(今田美桜)が「嵩さん、おはよう。朝だよ」とカーテンを開け、嵩(北村匠海)が机に向かっているシーンから始まった。そして第120話でついにこの時間軸に追いついた際、制作陣は第1話の映像をそのまま使い回すのではなく、新たな意味を込めて“再撮”を行ったのである。第1話で嵩が描いていたのはアンパンマン初期の太ったおじさんの姿だったが、第120話の同シーンで描かれていたのは、数々の苦難を経てたどり着いた「誰もが知るアンパンマンの顔」だった。半年間、二人が命を削りながら歩んできた道程を見てきた視聴者だからこそ気づくこの細やかな変化は、時間軸が合流した瞬間の感動を何倍にも増幅させ、大きな話題を呼んだ。
視聴者は、主人公たちがどれほど絶望的な挫折や理不尽な貧困を味わおうとも、「最終的にはあの場所にたどり着くはずだ」という希望を胸に、日々の放送を見守ることができる。これは、長期放送の朝ドラだからこそ成立する、作り手と視聴者の間の“信頼の契約”とも言えるだろう。
ひるがえって、本作『ばけばけ』の第1話冒頭は、過去の朝ドラと比べても非常に特異で“攻めた”演出だった。薄暗い部屋の中、真俯瞰のカメラワーク。トキがヘブンに向けて怪談を語り、ヘブンが彼女のおでこにキスをするという、極めて親密で、静謐で、そして少し不気味なトーンで幕を開けたのだ。『エール』や『あんぱん』のような「歴史的偉業の達成の瞬間」ではなく、あくまで「夫婦の濃密な日常の一コマ」を提示していた。
没落士族の娘として理不尽な苦労を重ねたトキと、異国で孤独を抱えながら生きてきたヘブンが、最初はすれ違いながらも心をひかれ合い、家族としての絆を深めてきたこれまでの過程を見届けた今、あの第1話の静かな夜のシーンは全く違った意味を持って立ち上がってくる。あの夜は、ヘブンが自身のアイデンティティと深く向き合い、妻の語る日本の物語に魅了され、ついには名著『怪談』の執筆へと向かう、夫婦にとっての「精神的な到達点」なのだ。おでこへのキスも、半年分の感情の蓄積を経た今となっては、二人の間にしか存在しない、かけがえのない深い愛情表現として視聴者の胸に迫るだろう。

『ばけばけ』は第120話でこの「原点の夜」を回収し、そこから先は視聴者にとっても「まだ見たことのない未知の時間軸」へと突入していく。第1話にたどり着いた後、『怪談』の執筆を始めたヘブンとそれを支えるトキが、どのような最終章を描くのか。
半年間という長丁場のドラマだからこそ味わえる、点と点が線になるカタルシス。そして、その線がさらに未来へと伸びていく朝ドラの醍醐味を、残り2週間の放送で心して見届けたい。
■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK























