小泉八雲は“めちゃくちゃ”な人? 『ばけばけ』史実からの脚色の狙いを制作陣に聞く

『ばけばけ』史実からの脚色の狙い

 髙石あかりがヒロインを務めるNHK連続テレビ小説『ばけばけ』が現在放送中。松江の没落士族の娘・小泉セツとラフカディオ・ハーン(小泉八雲)をモデルに、西洋化で急速に時代が移り変わっていく明治日本の中で埋もれていった人々を描く。「怪談」を愛し、外国人の夫と共に、何気ない日常の日々を歩んでいく夫婦の物語。

 第5週で、いよいよトキ(髙石あかり)が将来の夫・ヘブン(トミー・バストウ)と初対面。ここから2人の物語が始まるわけだが、想像以上に自由奔放で変わり者に見える彼を、制作陣はどのように作り上げたのか。

 制作統括の橋爪國臣は「ラフカディオ・ハーンについて調べれば調べるほど、いわゆる伝記に書かれているよりも、もっと人間くさいものがあると感じました。ハーンさんは、実は結構めちゃくちゃな人なんです(笑)。一見するとわがままにも見えるし、本当に好き放題言っている人にも見えるけれど、それをそのまま描いても面白くない。そこで、『なぜ彼は、そんな変な行動を取ったんだろう』と監督や脚本のふじき(みつ彦)さん、それからトミー(・バストウ)さんとも議論を重ねました」とキャラクター制作の裏側を語る。

 教壇に立った経験もないまま、突然松江にやってきて教師として働くことになったハーンは、日本での生活にどんな思いを抱いていたのか。三味線を絶賛したり、用意された旅館とは違う旅館に泊まったりするエピソードは史実に基づくものだが、ドラマではその背後にあったであろう見えない感情に光を当てた。

「きっと裏には緊張や不安があって、そういう行動に出ているんだろうなと。聖人君子ではなく彼自身も一人の人間で、言葉も通じず文化も違う外国にいれば、“変なこと”をして表面に出すしかなかったのかもしれない。周りから見たら変人だけど、彼自身はちゃんと筋を通して、そういう行動を取っているんだと話しながら作っていきました」

 第21話では、日本にやってきたヘブンがトキと初めて顔を合わせ、握手を交わす。だが実は「ハーンとセツがどこで出会い、どういう経緯で彼女を選んだのか」については資料が残っておらず、橋爪は「(ハーンが降り立った)船着き場はおそらくセツさんの家から徒歩30秒くらいですし、泊まっていた旅館も川を挟んで真向かいにあった。同じ生活圏で暮らしていたことは間違いないので、ドラマだったらどう出会うかな、ということを想像していきました」と話した。

 またヘブンというキャラクターを作り上げる上で、肝となったのは失明した左目の表現。橋爪は「ハーンの左目が実際にどうなっていたのか、写真も記述もないのであまりわかっていないんです」といい、「彼を描いた過去の作品では左目を閉じていたり、いろいろな解釈がありました」と説明する。

 『ばけばけ』ではコンタクトにするのか、特殊メイクにするのか、そもそも失明の設定をやめるのか。あらゆる可能性を検討し、バストウとも1カ月かけて話し合った上で“白く濁ったコンタクトを使用する”という形に落ち着いた。

「『事故で左目を失明した』と書かれている文献もありますが、事故ではなくいじめの延長だったのかもしれない。それはわからないけれど、いずれにしても彼のコンプレックスになったことは間違いなくて。幼い頃から母親が側におらず、父親とも疎遠になり、カトリックの考え方になじめずに親戚をたらい回しにされ、貧困生活を送り、さらには左目が見えなかった。たくさんのコンプレックスを抱え、“どこにも根付くことができなかった”というのが彼のパーソナリティーの中核だと思うんです。どこにも行き場所がない、ひどい世の中、そう思っていた中で、安住の地が地球の裏側で見つかった……そんな奇跡のラブストーリーのためにも、失明という要素は避けて通れないと考えました」

 さらに橋爪は「トミーは『左目が見にくくなってしまうかもしれないけれど、自分がコンタクトをつけることで、“この人は順風満帆な人生を送ってきたわけじゃないんだな”と周りの人たちが感じることができる。それによって周りの芝居が変わることが重要なんだ』と話していて、その通りだなと思いました」とし、「ヘブンが外国から来たスーパーな人間ではないんだと伝わることが一番重要で、そこが左目のコンタクトの濁りによって強く表現されている」と続けた。

 今後、左目について言及するシーンはほとんど描かれないというが、それもまた狙いのひとつ。「日常生活において、普通はそこまで触れ続けないですよね。そんなところが、このドラマのテーマにもつながるかなと思っています」。

 自由奔放なヘブンと、明るく家族思いのトキ。ここから2人がどう距離を縮めていくのか、楽しみに見守りたい。

■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK

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