前原瑞樹、4度目の朝ドラ『ばけばけ』で好演 『あんたが』白崎役でも注目の演技力

現在の日本のエンターテインメントシーンにおいて、前原瑞樹という演技者の重要度が右肩上がりだ。出番の多寡にかかわらず、彼は常にいい仕事をする。限られたシーンで強烈なインパクトを残すこともあれば、主要キャラクターを演じて作品そのものに強度を与えることもある。ドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(TBS系/以下、『あんたが』)が放送中で、朝ドラ『ばけばけ』(NHK総合)への登場をも果たそうしているいま、誰もがそう感じているに違いない。
前原が森山銭太郎という人物を演じる『ばけばけ』は、小泉八雲とその妻のセツをモデルにした物語を描いていく作品だ。誰もが知る『雪女』や『耳なし芳一』といった怪奇譚が、いったいどのようにして生まれ、広く語り継がれることになったのか。私たちはこの作品を通して知っていくことになる。森山銭太郎は第6週「ドコ、モ、ジゴク。」から登場する新キャラクターである。
彼は、ヒロイン・トキ(髙石あかり)の家族である松野家の借金を取り立てに来ていた森山善太郎(岩谷健司)の息子。“借金取り”と聞くと、どこか恐ろしい人物をイメージしてしまうが、善太郎はそういったものとはほど遠い存在だ。息子の銭太郎もまた、借金取りとして松野家と関わることになるらしい。いったいどんな人物なのか。

番組公式サイトの人物紹介欄には「父親譲りの人の良さから、あと一歩、非情になりきれない。借金取りとしてはどこか頼りないが、本人は精いっぱい背伸びをしている」(※)と記されている。これは面白いことになりそうだ。借金取り然とした振る舞いに徹そうとするものの、根っこにある人の良さまでは隠せない人物だということなのだろう。前原が軽妙に演じているところが頭に浮かぶ。
前原が「朝ドラ」に参加するのは、なんとこれが4度目だ。主演の有村架純を筆頭として力のある若手俳優たちが集結した『ひよっこ』(2017年度前期)にはじまり、『舞いあがれ!』(2022年度後期)にも登場し、『らんまん』(2023年度前期)では主人公と特別な関係を築き上げる藤丸次郎を好演した。心根の優しい藤丸の体現ぶりはまさに“好演”と呼ぶに相応しいもので、前原はこの作品で名実ともに一気に知られる存在となった。主演の神木隆之介との掛け合いを目にするたび、心に温かいものが広がったものである。これには多くの方が賛同してくれるはずだ。
同じく神木が主演を務めた『海に眠るダイヤモンド』(2024年/TBS系)では、物語の後半戦でいきなりキーパーソンとして登場し、視聴者をザワつかせた。同作は「日曜劇場」の作品であり、ドラマとしては“超大作”だといえるもの。その重要なピースのひとつとして前原がハマったとき、いかに彼が多くの人々から信頼されている演技者なのかを思い知った。みんなから頼られる、若き職人のような存在だ。彼が演じた池ヶ谷虎次郎もまた優しかった。
そして、同時期に配信がはじまったドラマ『外道の歌』(2024年/DMM TV)では極悪非道なクズ男を演じていたのだから驚いた(しかも、思い出しただけで気分が悪くなってくるほどのクズだ)。演劇作品での前原を見れば非常に器用な俳優だということが分かるのだが、それは映像作品でも活きている。映画やドラマでの前原の演技を目にして気になった方は、ステージ上の彼にも会いに行ってほしい。金子大地、三村和敬とともに立ち上げたユニット「惚てってるズ」の次回公演が待ち遠しいものだ。

そんな前原は『あんたが』にも好演を刻んでいるところ。演じているのは白崎ルイという人物だ。「女は男が守るもの」「料理は女がするもの」といった前時代的な価値観で生きる先輩に対して最初は冷ややかな態度を取っていたものの、やがて自ら変わっていこうとする彼を、白崎は支えるようになっていく。彼もまた、とても心が優しい。他者を理解しようと努める、いまの時代に必要な存在だ。前原の妙演が光っている。さてさて、『ばけばけ』をさらに盛り上げる銭太郎ではどう魅せてくれるのだろうか。
参照
※ https://www.nhk.jp/g/ts/662ZX5J3WG/blog/bl/p63MOdwNjk/bp/pnyMroAvAn/
谷口菜津子による同名漫画を原作としたロマンスコメディ。「料理を作る」というきっかけを通じて、“当たり前”と思っていたものを見つめ直していく男女を描く。























