男性の“ケア”はなぜ難しいのか? 『あんたが』『ぼくたちん家』が示す現代性

『あんたが』『ぼくたちん家』と男性のケア

 10月から始まった秋ドラマは、男性の「ケア」の新たな形を描く作品が目立つ。男性がケアされるのではなく、自身と周囲をケアする——そんな姿が印象的だ。

 これまで男性はどのようなプロセスを経て傷を修復してきただろうか。アルコール(飲みニケーション)やアドレナリン(仕事や恋愛への没頭)、そして女性からのケア(食事・家事)のどれかではないかと考えられる。

 例えば、最終回に視聴率42.2%(※)を叩き出した『半沢直樹』(TBS系)で描かれる、「倍返し」をしながら出世していく半沢直樹(堺雅人)と、夫の家事や食事を徹底的に家でサポートする妻の花(上戸彩)の構図をイメージしていただくと分かりやすいだろう。

 このようにケアする/される立場が男女で二分されている時代は、確かに長く続いてきた。それは裏を返せば、これまで多くの男性はケアしない(できない)主体であったと言われることもある。

 6月に出版された高殿円『父と息子のスキンケア』(ハヤカワ新書)では、ケアする女性/ケアしない(できない)男性という構図の背景を丁寧に解説している。ほとんどの女性が当たり前のようにスキンケアを行う一方で、洗顔フォームを使用せず、スキンケアをしたことがないという男性は約半数、つまり3,000万人もいる衝撃を伝えた。この男女格差、男性内格差は個人の嗜好ではなく、自分の健康状態に気を配れるほどの経済的余裕や新しいものを受け入れられる社会的柔軟性があるか、といった社会的な問題なのではないかと指摘する。「ケアしない(できない)男性」問題は深刻な社会課題と言えそうだ。

 このようななか、今期のドラマは男性が主に「雑談」の形で自身や周囲をケアしている描写が目立つ。これらは画期的であると同時に、「ケアしない(できない)男性」問題解決の足がかりになるのではないか。

ケアする/されるの併存『じゃあ、あんたが作ってみろよ』

『じゃあ、あんたが作ってみろよ』©TBSスパークル/TBS

 『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(TBS系)は、山岸鮎美(夏帆)へのプロポーズ失敗という挫折を味わった海老原勝男(竹内涼真)が自己を修復していく物語だ。

 大手企業で出世コースを歩むなど順風満帆だった彼にとってプロポーズ失敗はまさに青天の霹靂だ。何とか立ち直りつつあるのだが、それは彼が自身をケアする技術や雑談できるコミュニティがあったからではないだろうか。

 勝男は、女性が料理を作って当たり前、そのうえ「色合いや旬の食材を意識すべし」「冷凍食品を使った弁当は手作り弁当ではなく解凍弁当である」と断言するなど一周回って新しささえ感じる「化石男」である。この価値観が原因の一つとなり、勝男はフラれてしまうのである。

『じゃあ、あんたが作ってみろよ』©TBSスパークル/TBS

 ただ、彼は単なる亭主関白キャラではなく、自身をケアする術も持ち合わせているところが興味深い。

 例えばそれは、彼が作成した「結婚までにやることリスト」に表れている。そのリストにはレストランの予約や結婚指輪の準備に加え、「整体で歪みをなおす」「眉毛サロンにいく」という自身をケアする項目が書かれているのだ。「食事や家事は女性がすべきという価値観と、自身のケアに注意を向ける発想は併存しうるのか!」と思わず目を見張った。

 また、雑談できるコミュニティを築いていた点も特筆に値する。勝男は白崎ルイ(前原瑞樹)、南川あみな(杏花)といった後輩を連れて、3人で昼食をとることが増える。そこで交わされる雑談や忌憚ないツッコミによって、勝男は自炊を始めるようになり、自身の性別役割分業意識を改めようと変わっていくのだ。「料理をつくれるようになるって、世界を広げることでもあるのかも」という勝男のモノローグは、「男性は女性から料理というケアを受ける存在」という世界からの解放を意味している。

 また、アルコールを介さずにファミレスやカフェで雑談を行う主体は女性が大半であることは、バカリズムが脚本を手がけた『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系)、『ホットスポット』(日本テレビ系)などの作品から明らかだ。

 だからこそ、男性がいわゆる「飲みニケーション」とは違うシーンで会話を交わす勝男たちの営みに真新しさを感じるのかもしれない。

 『じゃあ、あんたが作ってみろよ』は、旧来の男性像を内面化した勝男が、雑談で得た知見を行動(ケア)に落とし込むことでアップデートしていく物語なのだ。

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