『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』のテーマは? 劇場先行上映中の予告編を解説

『アバター』第3弾の予告編を徹底解説

 そして現れるのが「灰の民」だ。鮮やかな赤い入れ墨が印象的な戦士たちと、リーダーの女性ヴァラン(ウーナ・チャップリン)が映し出される。サリー家と協力体制を組むのかどうかがストーリーの焦点となるが、ヴァランの姿や表情には、親しみにくい威圧的な風格がある。そして、不思議な力を持つサリー家の養女のキリ(シガニー・ウィーバー)に対してヴァランは、「お前の女神はここでは役に立たない」と言い放つ。

『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』©2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.

 森の民、海の民しかり、ナヴィたちは自然の神「エイワ」を信仰している。それを考えれば、彼女の発言はナヴィのなかの異端的な思想を感じさせるものだ。ヴァランや灰の民に何があったのかは謎だが、自然信仰に背を向けるという姿勢には、例えば火山の圧倒的な力が部族に悲劇をもたらすなど、自然が牙を剥いたことで憎悪を募らせた可能性も考えられる。

 不穏なのは、灰の民たちが人間側と接触するような場面があるところ。もしも灰の民たちが侵略者と協力したり共闘するようなことがあれば、かつて現実の歴史において、ヨーロッパの列強が北アメリカで一部の先住民族と軍事同盟を結んだ状況を思い起こさせる。結果として、同じ先住民同士が敵味方に分かれてしまうという、悲劇的で皮肉な構図が生まれてしまったのだ。

 先日、キャメロン監督が、広島と長崎で原爆を生き延びた日本人男性の実話を基にした映画を製作する考えがあることが報道された。暴力の被害を受ける人々の視点に立ち、自国の加害を問う姿勢は勇敢だ。同様にこれまでも『アバター』シリーズは、アメリカ先住民、オーストラリアのアボリジニなどのように、入植者によって迫害され土地や財産、命を奪われた歴史を想起させる物語を描いてきた。

 これまでのハリウッド映画の歴史は、そういった支配者側の罪に向き合うことが少なかったが、キャメロン監督は圧倒的な視覚体験を与える娯楽大作で、従来の構造を逆転させ、さまざまな立場からものごとを考えることを、観客にうながすのである。本作ではそれを一歩進め、より複雑な状況を描いていくのだと考えられる。

『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』©2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.

 予告編で最もショッキングなのは、おそらくはRDAに捕らえられ、人間たちの群衆に囲まれながら歩かされる場面。そして、スパイダーが命の危機にさらされる場面である。混迷を深めていくなかで、彼らがどう危機に対処し、何を選び取っていくのかにも注目したい。

 火は、燃え上がれば燃え上がるほど、より多くの灰が生まれる。それは、憎しみと怒りが悲しみを生み出すサイクルに似ている。しかし一方で、灰は植物にとって肥料となり、いつか植物が芽吹く希望にもなり得る。

 われわれの生きる現実の世界でも、残酷な状況を伝える報道が絶えない。憎しみや苦しみの連鎖、そして特徴が異なる者たちへの差別は、いったいどうやったら止められるのか。本作『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』は、そんなことを観客一人ひとりに問いかけてくる作品になるのかもしれない。

■公開情報
『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』
12月19日(金)日米同時公開
監督・製作・脚本:ジェームズ・キャメロン
製作:ジョン・ランドー
出演:サム・ワーシントン、ゾーイ・サルダナほか
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.

■配信情報
『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』
ディズニープラスにて見放題独占配信中
©2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.

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