中森明菜主演『悪女』は幻のお宝ドラマ 沸騰する熱量で勝負する古き良きエンタメがここに

放送から30年以上のときを経たいま観ると、こんなふうに時代とドラマを照らし合わせて感慨もひとしお。とはいえ、基本的には、3作とも難しいテーマも主張も考察が必要になる登場人物の複雑な心情もバックボーンもない。これはいい意味でである。その瞬間、沸騰する熱量で勝負する、シンプルで強度のある、観る者を選ばないエンタメだ。

脚本は3作違うが、演出は若松節朗ひとりが担当している。中森明菜が3パターンの悪女を演じ分けているのも見応えがあるが、若松ひとりでまったく違うテイストのドラマを演出していることも見どころのひとつといえるだろう。若松は同じ頃、三谷幸喜が脚本を書き、最終回のびっくり展開によって伝説となった『振り返ればやつがいる』(1993年/フジテレビ系)の演出、その後も松嶋菜々子の小悪魔的なキャラが愛された『やまとなでしこ』(2000年/フジテレビ系)などヒットドラマを数多く手掛けている。映画では『沈まぬ太陽』(2009年)、『Fukushima 50』(2020年)なども監督し、2026年には北方謙三の小説を原作に、織田裕二主演で『水滸伝』(WOWOW)の放送も控える。走り続けるベテラン若松監督の、90年代の仕事を改めてじっくり観るいい機会だ。

いま観てもこんなおもしろいドラマがソフト化もされることなく、目にする機会がなかったなんてもったいない。古尾谷雅人、岡田真澄、山田辰夫、森山周一郎、阿藤海、川谷拓三、南美江、細川俊之……とすでに鬼籍に入った名優たちの名演技の記録としても貴重である。まさに海底深く沈んでいた幻のお宝のようなドラマなのだ。
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■放送情報
『悪女A』
CSホームドラマチャンネルにて、7月9日(水)9:30〜12:00放送
脚本:中園ミホ
演出:若松節朗
出演:中森明菜、岡田真澄、古尾谷雅人、山田辰男
1991年
©共同テレビジョン
『悪女B』
CSホームドラマチャンネルにて、7月9日(水)9:30〜12:00放送
脚本:塩田千種
演出:若松節朗
出演:中森明菜、坂上忍、阿藤海、藤田タカシ
1991年
©共同テレビジョン
『悪女II サンテミリオン殺人事件』
CSホームドラマチャンネルにて、7月10日(木)9:30~12:00放送
脚本:金谷裕子
演出:若松節朗
出演:中森明菜、保阪尚希、古尾谷雅人、細川俊之、川谷拓三
1993年
©共同テレビジョン






















