『赤かぶ検事奮戦記』は法廷ドラマの先駆者だった フランキー堺の柊茂は今も色褪せない

『赤かぶ検事奮戦記』は法廷ドラマの先駆者

 1970年代から1980年代にかけて、アクションと刑事同士のかけあいを前面に打ち出した番組が数多く放送されていた。日本テレビの『太陽にほえろ!』(1972年~1986年)、フジテレビの『華麗なる刑事』(1977年)、TBSの『噂の刑事トミーとマツ』(1979年~1982年)など、枚挙にいとまがない。

 そういう時代の中、1980年にテレビ朝日系で放送が始まったのが『赤かぶ検事奮戦記』だ。殺人事件とその犯人を扱う内容であっても、主人公は若手の熱血刑事ではなく、妻子ある中年の男性検事。しかも当時としては珍しい、犯罪者の罪を裁く法廷のドラマに主軸が置かれていた。そのドラマ『赤かぶ検事奮戦記』(以下、『赤かぶ』)が、5月15日よりホームドラマチャンネルで放送される。

 主人公の柊茂(ひいらぎ しげる)は、相手のことを「おみゃーさん」と呼ぶ名古屋弁の中年男。叩き上げのベテラン検事ならではの豊富な法知識と、長年の人生経験から来る洞察力で殺人事件の真相を解き明かす。赤かぶの漬物が好物で、裁判所に行く前に手に入れた野菜の赤かぶを、公判中に床にぶち撒けてしまったことから「赤かぶさん」の仇名が付いた。

 数多くの喜劇映画に主演してきたフランキー堺が、持ち味のユーモラスな芝居で人間味のある検事·柊を好演し、番組は好評のうちに12年にわたるシリーズ化を果たした。柊を取り巻くレギュラーも多彩な顔触れで、柊の娘で弁護士を職業とする葉子役に倍賞千恵子、第1話で柊と知り合って相棒となる榊田警部補役に森田健作、法廷で被疑者の弁護を務める法眼弁護士役に沖雅也が名を連ねた。絞殺死体や白骨死体が出てくる殺伐とした事件の中にあって、柊とその家族との騒々しいやりとりにはホームドラマの風情も感じられ、単なる推理サスペンスに留まらない魅力を感じさせる。

 殺人事件の被疑者を巡る裁判劇で、主人公と対立する側の人物――『赤かぶ』でいうと検事に食らいつく法眼弁護士がそれにあたるが、法眼は柊と火花を散らす立場ではあるが、決して非情な人間でも融通が利かない男でもない。刑事事件の被疑者を裁く検事と、その被疑者を弁護する人物。法廷ドラマでは、どちらか一方は視聴者の憎まれ役になりがちだが、本作は弁護士も人の心の機敏を理解し、よく笑顔を見せる温和な人物に描かれている点が面白い。

 本作のレギュラーには、視聴者の反感を買うよう設定されている嫌味な人間がいないのだ。沖が演じる法眼は、柊の娘と司法研修所時代の友人同士、つまり旧知の間柄として第2話から登場し、裁判所を一歩出れば柊親子とフランクに付き合っている好青年。柊の妻·春子(春川ますみ)が言うには、六法全書に手足が生えてるようなエリートだが、エリート特有の冷たさや高慢さを匂わせない、好感を持たれる男に描かれている。本ドラマの原作は、和久峻三による推理小説『赤かぶ検事』シリーズで、第3話には和久自身も“原作者”というテロップつきでゲスト出演している。フランキー堺と台詞のやりとりがある判事役なので、ホームドラマチャンネルの放送でチェックされたし。

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