『あんぱん』“元”愛国の鑑・のぶの葛藤 嵩はどんなときも“逆転しない正義”を探し続ける

のぶの中には、自分が信じていた正義が間違いだったことによる不安感が渦巻いているのだろう。そんなのぶに、嵩はどんな世の中になってもどうすればよかったのか、自分は何を選択するべきかを考えるしかないと答える。戦地で壮絶な飢えを体験して死線をくぐり抜け、岩男(濱尾ノリタカ)の死、千尋(中沢元紀)の死を目の当たりにした嵩は改めて反戦への意識を強めていた。一方で、戦争そのものに反対しながらも、いつの時代も変わらない逆転しない正義を探したいと、嵩は希望も見出している。また、千尋からの最後の言葉である愛する人のために生きることも、嵩にとって生きる意味になっているようだ。

第62話では、戦争から帰った後の嵩の葛藤が語られたが、今回は“愛国の鑑”として教師を務めてきたのぶの葛藤が語られた。自分の信じてきた正義が間違いだったと突きつけられることは、アイデンティティの喪失に近いものがある。今田の芝居からは、心に空いた穴と罪悪感を抱いていることで出る涙から、嵩の言葉を受けて生きる意味を見つけたことによる希望のある涙へと変化していく様子が見てとれた。

愛と逆転しない正義を探すために生きる。そんな希望がのぶの中に宿ったのだろう。失ったものは変わらない。シーソーに一緒に乗った千尋は戻ってこず、崩れた高知の町の景色も変わらない。それでも生き続ける者として、前を向く。町を眺めるのぶの後ろ姿は冒頭の姿と同じはずなのに、オレンジ色の光を見つめるその背中からは淡い希望が伝わってきた。
軍国主義に傾倒していったのぶの感情を戦後にどう昇華するかは、『あんぱん』のストーリーの一つの見せ所だった。ここから第2章が始まると言っても過言ではないのかもしれない。のぶと嵩がどんな人生を歩んでいくか、どのようにアンパンマンの誕生へと繋がっていくかをしっかりと見ていきたい。
■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、加瀬亮、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、細田佳央太、高橋文哉、中沢元紀、大森元貴、二宮和也、戸田菜穂、浅田美代子、吉田鋼太郎、竹野内豊、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK






















