『Dr.アシュラ』“もう一人の主人公”は佐野晶哉 薬師寺保に重なるAぇ! groupとの現在地

どんな患者も受け入れる。“アシュラ”の異名を持つ救急医・杏野朱羅(松本若菜)は、病院の経営状況を気にする他の医師とは異なり、とにかく目の前の患者だけを見つめてきた。そのおかげでこれまで多くの命が救われたことは言うまでもない。
一方で、ドラマ『Dr.アシュラ』(フジテレビ系)において、杏野だけでなく薬師寺保(佐野晶哉)の存在も物語を動かす大きな軸となっていた。第1話で杏野の元に研修医としてやって来た薬師寺は、元々実家の皮膚科を継ごうと考えていただけで、特に救急科への思い入れはなかった。研修医であるため技術も知識もまだ十分ではなく、いきなりの実践におどおどして「無理です……!」という言葉ばかりを発していたのが印象的だ。

確かに、脳をフル回転させて出来るだけ早く最善の治療を施さなければならない救急の現場では、そうなってしまうのも無理はない。ある時は杏野が、またある時は多聞(渡部篤郎)ら先輩医師たちが助け舟を出して、なんとか事態を収めたことも多く、杏野に“坊主”ではなく“薬師寺先生”と呼ばれるようになるまではまだまだ程遠いようにも見えた。それでも、大学時代から知っている看護師の水吉(荒井玲良)から背中を押され、頑張ろうとする姿も映る。
そんな彼は、幼なじみ・圭太(藤堂日向)とその婚約者・あかね(紺野彩夏)が登場する第6話で、大きな転機を迎えた。失敗が続き完全に自信を無くしていた薬師寺は、その最中、事故に遭ったあかねが運ばれてきたのを目にする。さらに、圭太も心停止の状態になってしまうのだ。この怒涛の展開に医師は足りておらず、圭太に対処できるのは薬師寺ただ一人。それにもかかわらず逃げようとする薬師寺に対し、手術中で手が離せない杏野は「無理ってただ諦めてるだけでしょ。あんたの意志で死なせようとしてるのと一緒」と、まるでビンタをするかのように鋭い大声で叫ぶ。このシーンは、薬師寺の医師生活における成長点であり、同時にチームの熱い団結力が垣間見えた瞬間だった。
そしてその言葉のおかげで薬師寺は弱々しい表情から一変し、力強い表情を見せ始める。まさに一皮剥けた状態となり、圭太もあかねも一命を取り留めることができた。杏野からも「薬師寺先生もよくやったんじゃない?」と言われ、ついに“坊主”から名前呼びに変化したのだ。

もちろん、医師としてまだ未熟な部分も多い。だが、無表情な杏野に臆せず話しかけたり、並んで食事をしたり、朝の挨拶を欠かさなかったりと、薬師寺には現場に温かさをもたらす力がある。この2人の歪なバディこそが物語の要であり、視聴者目線で寄り添ってくれた薬師寺の存在は、杏野と並ぶ“もう一人の主人公”と言ってもいいのではないだろうか。『Dr.アシュラ』は天才医師の物語というだけではなく、研修医の輝かしい成長物語でもあるのだ。





















