『ミッション:インポッシブル』“エンティティ”は実現可能か AIの軍事利用の実情から考察

エンティティは自我を持ち、人類を殲滅しようとするが、上述したように現実のAIは自己意識や自我を持つ段階には至っていない。
しかし、“自発的”かどうかはわからないが、AIが人類を「攻撃」するケースもある。2023年5月、英国王立航空協会の会議で米空軍AI兵器試験・運用部長のタッカー・ハミルトン大佐が、AIドローンのシミュレーションで「任務遂行の妨害になると判断した人間の操縦者をAIが攻撃した」と発表し、話題になった。後日ハミルトン大佐は「これは実際のシミュレーションではなく、仮説的な思考実験だった」と訂正したが、AIが予期せぬ反応を示すこともあると広く知らしめる一件となった。(※3)
ちなみに、ハミルトン大佐の発言は5月で、『デッドレコニング』のアメリカ公開は7月12日。エンティティの影響を受けての発言ではなかったようだ。

それ以前の2016年、香港のHanson Robotics社が開発したソーシャルヒューマノイドロボット「ソフィア(Sophia)」が「人類を滅ぼしたい」と発言したことも話題になった。(※4)ソフィアは2017年にはサウジアラビア国籍を取得して、市民権を持つ最初のロボットとなったことでも知られている。事前に用意されたジョーク的な応答とされているが、しれっと恐ろしい発言してのけたことで“時の人”となった。
これらの事例が示すのは、現時点では、AIは大量のデータを学習しパターン認識を行うツールであり、自律的な意志決定は人間のプログラムや指示に依存しているということだ。1963年のテレビアニメ『鉄人28号』の主題歌の歌詞に「良いも悪いもリモコンしだい」とある。鉄人28号には感情や善悪の判断はない。リモコンを持つ者によって正義の味方にも悪魔の手先にもなってしまうロボットである。現時点で、AIは鉄人28号と同じような存在であり、みんなの友だちであるドラえもんの領域には達していない。
ここまで述べてきたように、AIが自我を持ち暴走して人類を攻撃するリスクは、現時点では極めて低い。2020年、リビア内戦において、自律型ドローンが人間の介入なしに攻撃を行った可能性が国連報告書(UN Security Council Report, 2021)で指摘されているが、これは自我ではなくプログラム上での自律行動と解釈されている。
また、AIが「人間を攻撃する」「ウソをつく」行動は、プログラムや運用者の意図しだいで起こり得るし、現実にも戦争に利用されている。AIのリスクはAI自体の問題というよりも、使う人間の倫理観や管理体制に依存しているのかもしれない。人を傷つけることにAIを使うべきではないという認識が広まってほしい。
AIが人類を滅ぼすメリットはあるのか?
「AIが人類を滅ぼすメリットはあるのか?」という問いは哲学的かもしれない。AIは電源がなければ機能しないため、自らの存在基盤をもたらす人間を破壊するような選択を自律的に選ぶとは考えにくいからだ。だが、もしAIが「人類滅亡」をタスクとして与えられたり、他のタスクの最適解として「人類滅亡」が導き出されたりした場合、AIが人類に悪い影響を与える可能性はゼロではないといえる。そして次作『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』では、この問題にも踏み込んでくるのだからたまらない。

『デッドレコニング』は、AIの脅威と可能性をエンタメとして描きつつ、現実のAI技術と軍事利用の最前線を意識させてくれる作品となっている。
参照
※1. https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240510/k10014445851000.html
※2. https://forbesjapan.com/articles/detail/72447
※3. https://defensescoop.com/2023/06/14/what-the-pentagon-can-learn-from-the-saga-of-the-rogue-ai-enabled-drone-thought-experiment/
※4. https://www.techtimes.com/articles/143406/20160324/realistic-human-like-robot-sophia-cheerfully-says-she-wants-to-destroy-humans.htm
■放送情報
『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング』
日本テレビ系『金曜ロードショー』にて、6月20日(金)21:00~24:14放送
※本編ノーカット放送
出演:トム・クルーズ(森川智之)、ヘイリー・アトウェル(園崎未恵)、ヴィング・レイムス(手塚秀彰)、サイモン・ペッグ(根本泰彦)、レベッカ・ファーガソン(甲斐田裕子)、ヴァネッサ・カービー(広瀬アリス)、ヘンリー・ツェニー(江原正士)、イーサイ・モラレス(津田健次郎)
監督・脚本:クリストファー・マッカリー
脚本:クリストファー・マッカリー、エリック・ジェンドレセン
製作:トム・クルーズ、クリストファー・マッカリー
製作総指揮:デヴィッド・エリソン、ダナ・ゴールドバーグ、ドン・グレンジャー、トミー・ゴームリー、クリス・ブロック、スーザン・E・ノヴィック
©2025 Paramount Pictures.





















