『最後から二番目の恋』シリーズの“真髄”はカメラワーク ワンシーン・長回しの表現を読む

『最後から二番目の恋』の“真髄”はカメラ

 一方で、見ている側にしてみれば、長回し、つまりシーンが割られることなくリアルの時間が流れることによる没入感は相当大きい。まるで一緒にテーブルについて相槌を打ちながら、話の落ち着き先を見守っているような臨場感が感じられる。

 第9話では、和平がナガクラに皆を集め、たこ焼きパーティをするシーンがあった。まず和平と千明による、フリマで買ったエプロンの値段についての小競り合いからスタート。そして和平が鎌倉市長の立候補の依頼を断ったと報告する。そう、つまり“何も起きない”。「ここ(長倉家と千明のいる日常)がオレの夢」「自分に大きな変化を起こして今の幸せを壊したくない」と語る和平。大事なのは自分の選択であることなのだと考えさせられる。このワンシーン、実に12分強。

 ナガクラでの場面のみならず、千明と和平が2人のシーン、大人女子会のシーンなどでもワンシーン・長回しが多用されている。1時間ドラマのシーン数は50〜60シーンが一般的。例えば『御上先生』(TBS系)が1話平均44シーン、『エルピス—希望、あるいは災い—』(カンテレ・フジテレビ系)だと平均57シーン、『MIU404』(TBS系)では平均95シーンである(※1)。ところが本作の場合、第2話が37シーン、第3話では28シーンと相当少なく、ワンシーン・長回しの積み重ねによってこのドラマの空気感が作り上げられていると言える(※2)。

 例えば第2話ではエンディング前に千明と和平の2人飲みの場面があった。千明は“怒り”が、和平は“困り”が原動力だなどとしみじみ語り合うのだが、そのシーンは7分に渡る。しかしこれだけでは収まらない。第3話はこの2人飲みの続きから始まり、“和平少年エロ本号泣事件”の顛末が語られるのだが、この場面も同じく7分ほど。

 短いセリフとカットを多用し、見飽きないよう変化やテンポ感を出していくーー、そういったドラマが多い中で、居酒屋でのただただ穏やかな語らいにこれほどの尺を割くことを是とする、それこそが2012年から変わらない『最後から二番目の恋』の“真髄”と感じる。

 月刊『ドラマ』6月号に岡田はこう書いている。

「『人はあまり走らない。基本歩く。なるべく江ノ電より早い乗り物は出さない。それがリズムや世界を作る。人物たちがたくさん語る言葉の向こうに人生が見えるようにつくろう。すべての役を愛らしい人として描こう。どんな人の人生も面白いのだから』。今回は参加できなかった、宮本理江子Dとの初期の打ち合わせで出た言葉のメモです」

『続・続・最後から二番目の恋』が描く“老いへの賛歌” 随所にフレンチのような隠し味が効く

朝食のシーン、悲喜こもごもな日中のシーン、そしてその日を振り返る居酒屋のシーン。中盤に差し掛かって変化球も混ぜてきたが、『続・続…

 第7話で「物語は、生きている中では会えないような人たちや、自分とは違う人生を教えてくれる」とチーム吉野の三井(久保田磨希)、飯田(広山詞葉)が話す場面があるが、まさに岡田の言葉とリンクする。普段、私たちは自分の身の回りの世界を生き、いつもの仕事、いつもの家族や仲間に囲まれている。だからこそ自分とは違う生き方や価値観に触れることに大きな意味がある。

 ワンシーン・長回しだからこそ出せる、“今ここで生きている”という実感。丁寧に時間を紡ぐからこそ、観ている側の人生にもじんわりと確かに染み込んでいく。何が起きるわけではないが、確かな出会いがあり、感情が動く。それが積み重なって毎日が豊かになっていく。『続・続・最後から二番目の恋』は、自分の人生は愛おしいものだと気づかせてくれる。

参照
※1. 各シナリオブックを参照して算出
※2. 月刊『ドラマ』6月号(『続・続・最後から二番目の恋』1〜3話掲載)を参照

『続・続・最後から二番目の恋』の画像

続・続・最後から二番目の恋

鎌倉を舞台に、テレビ局プロデューサーの主人公と、市役所で働く公務員の恋を描いたロマンチック&ホームコメディ。2012年1月に第1期の連続ドラマ、同年11月にスペシャル版、2014年に第2期が放送され、本作はその続編となる。

■放送情報
『続・続・最後から二番目の恋』
フジテレビ系にて、毎週月曜21:00~21:54放送
出演:小泉今日子、中井貴一、坂口憲二、内田有紀、飯島直子、久保田磨希、松尾諭、佐津川愛美、白本彩奈、広山詞葉、美保純、柴田理恵、浅野和之、渡辺真起子、森口博子、石田ひかり、三浦友和ほか
脚本:岡田惠和
プロデュース:若松央樹(フジテレビ)、浅野澄美、郷田悠(FCC)
演出:楢木野礼、高橋由妃、西岡和宏(フジテレビ)
主題歌:浜崎あゆみ「mimosa」(avex trax)
制作協力:FCC
制作著作:フジテレビ
©︎フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/nibanmeno_koi/
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