劇場版『呪術廻戦 懐玉・玉折』が持つ総集編以上の意味 そこにあったどこまでも青い季節

『呪術廻戦 懐玉・玉折』総集編以上の意味

 『劇場版総集編 呪術廻戦 懐玉・玉折』が5月30日から劇場公開されている。本作は2023年の7月から8月にかけて放送されたアニメ5話分の内容というわけで、約2年ぶりに「懐玉・玉折」の物語が大きなスクリーンに映される形で戻ってきた。公開初日から3日間で、動員が約13万8000人、興行収入が約1億9800万円を記録。まずまずの出だしであるが、今後の週替わりの入場特典を踏まえると興収の伸びが期待できる。

 「とはいえ、“総集編”だしな」という気持ちがどこかにあった。作品のいちファンとして大きなスクリーンで「懐玉・玉折」を観られること自体が嬉しくも、すでに観たことがあるもの、知っているストーリーであるが故に良くも悪くも気持ちがフラットな状態で鑑賞に臨んだ。

 殴られた。場内が明るくなっても暫く立ち上がることができないほどの衝撃だった。自分が知っていると思っていた「懐玉・玉折」の物語に、本作の“ある仕掛け”がもたらした奥行き。それを軸に本作がどれほど総集編以上の意味を持ち、劇場で観ることの意義に溢れた作品であるかについて考えたい。

※本稿には『劇場版総集編 呪術廻戦 懐玉・玉折』の結末を含むネタバレが記載されています。

劇場で観るのに適していた物語性とカメラワーク

 映画が始まってすぐに思い出したのは、もともと「懐玉・玉折」がテレビアニメ的というより劇場作品的な作画だったことである。特に第1話にあたる映画の冒頭、歌姫と冥冥が呪われた洋館に足を踏み入れるシーン。懐中電灯を照らして広間に進んでいく歌姫の足元をトラック撮影し、広間に出たところではあえて歌姫より高い位置にいたカメラが下がってローアングルのショットに落ち着くようになっている。トラック撮影によって彼女の動きがより流動的に感じられるだけでなく、歌姫が広間(家)の大きさに圧倒される感情を、レンズを上下に動かすことで表現している。このシークエンスだけでも本作が実際の映画を撮るような視点で作られていることがわかるのだ。もちろん、それを劇場で観ることでカメラワークの良さをより実感できる。

 何より、物語のフォーマットそのものも言ってしまえば映画に適しているのだ。1話ごとにオープニングとエンディングが挿入されていたアニメと、通しで観ることができる映画。時間経過や舞台の変化が激しい場合は、アニメのように区切りがあることで観やすくなっているが「懐玉・玉折」はほとんどが星漿体同化までの3日間と、その1年後の物語となっていて物語の中に継続した時間が流れているのが特徴的だ。そのため、これらを一連の出来事として観られる劇場版には没入感があり、アニメ版とは鑑賞体験が全く異なる。

 また、五条悟がうたた寝をした際に見た夢であり、過去の回想となる本作は、前後の物語を必要とせず、これだけでストーリーに起承転結が成り立っている。登場人物も限られているため、そのキャラクター性も追いやすい。特に五条悟と夏油傑、この二人の対比と別れを軸に構成されている本章は『呪術廻戦』の中で最もエモーショナルなものだからこそ、劇場の大きなスクリーンで観ることでその心情描写がよりわかりやすく映されていて、テレビやパソコン、スマホの画面越しよりも遥かに大きな情報を受け取ることができる。例えば伏黒甚爾が競馬場で見せたふてくされた表情や、客にぶつかってラーメンを落とした時の威圧感など、アニメ以上に存在感や迫力が増しているシーンが多い。

 その迫力は音楽や“間の使い方”とも関係しているだろう。本作全編の音楽は5.1chサラウンドの劇場環境に合わせて再ミックスされ、一部楽曲は劇場版用にアレンジされている。これが非常に良くて、ピアノのサウンドから拍手、雨の音など多岐にわたる場面でアニメ版以上の情緒や迫力、感動があった。また、内容に関しては基本的に本編とほぼ同じだったものの、細かなところの間の空き方が少しだけ異なるように感じた。それも音のミックスによって感じ方が変わっただけかもしれないのだが、例えば夏油と新宿で対峙した後、何もできずに学園に帰ってきた五条が階段に座って項垂れているシーン。ここで流れる蝉の声が、なんだかやけに大きく感じ、存在感があったように思う。アニメ版ではすぐに学長が上から降りてきて五条に声をかけるのだが、映画の中では彼一人の時間が長かったように感じた。五条の心情を考えさせるようなその“間”のように、やはり劇場版はそのように広がるキャラクター解釈と奥行き、余韻、この3点において圧倒的にアニメ版との違いを実感させられた。

 そしてキャラクター解釈の拡大と奥行き、余韻といえば……、本作のエンディング映像である。

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