“個人制作アニメーション”に眠る可能性 『無名の人生』『音楽』『JUNK HEAD』の凄さ

いまさら言うまでもないことなのだが、世界のアニメ市場規模は拡大の一途を辿っている。ある調査によると、その市場は2024年に300億米ドルに達し、2037年末までには983億米ドルに達すると予測されているとのこと(※1)。
もちろん、日本のアニメ市場も絶好調。日本動画協会が発表した「アニメ産業レポート2024 サマリー」(※2)によれば、コロナ禍で一時的に落ち込んだ2020年以外は、13回連続で最高値を更新。2023年は、3兆3465億円という史上最高値を記録した。
2024年の映画興行収入ランキング(国内)を見てみても、劇場版『名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)』(158.0億円)、『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』(116.4億円)、『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』(63.2億円)、『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』(53.8億円)と、アニメーション作品が上位を占めている(※3)。
投じられる制作費や人員が膨大なものとなり、細分化・専門分化・分業化が進むアニメ業界。そんななか、全ての工程をひとりで受け持つ個人制作アニメーションも、密かに注目を集めている。5月16日より劇場公開中の『無名の人生』は、まさしくその系譜の作品だ。本作は、鈴木竜也監督による初の長編アニメーション。仙台の団地で父親と暮らす孤独な少年が、ある転校生との出会いをきっかけにして、波乱万丈の人生を歩み出すという物語である。
鈴木監督はクラウドファンディングで「iPadひとつ、男手ひとつの全編手描きで制作します」(※4)と宣言して資金を集め、実家にこもってひたすら制作に打ち込み、1年半という歳月をかけて作品を完成させた。絵コンテも脚本も書かず、いきなり原画を描き始めるというやり方からして、個人作業に特化した超ストロングスタイル。

思いつくまま、ほぼ即興的に紡がれていったストーリーは、いじめ問題、芸能界の闇、宗教、戦争と、とてつもなく広い射程に及ぶ。集合知・集団作業によるウェルメイドなプロダクトではなく、作り手の執念(&怨念)がダイレクトに焼きついているからこそ、作品には異様な磁場が働いている。明らかに旧ジャニーズ事務所の性加害問題を参照したであろう描写も、個人制作であるがゆえに、遠慮なく真正面から斬り込むことができたのだろう。
本作のプロデューサーを務めているのは、岩井澤健治。彼もまた、2020年に発表したアニメーション作品『音楽』で、およそ7年間かけて4万枚の作画をたったひとりで手書きし、監督・脚本・絵コンテ・キャラクターデザイン・編集など、ほぼ全てのパートを請け負った。楽器未経験の不良少年たちがバンドを組むという、ローカルでミニマムなストーリーなのに、なぜか宇宙スケールの壮大さがあるという点で、『無名の人生』と『音楽』はよく似ている(そしてどちらも大傑作!)。

岩井澤は、「自分がプロデューサーという形で入れば、きっかけとして劇場公開まで行ける道筋ができるんじゃないかと思って参加したんです。音周りで協力はしましたが、内容は関わっていません」(※5)と語っている。彼は決して鈴木監督の“ひとりクリエイティブ”を脅かすことなく、多くの観客の目に触れる機会を創出することだけに専念した。おそらく鈴木監督にとって岩井澤は、理想のプロデューサー像だったはず。




















