『あんぱん』の物語と繋がるRADWIMPS「賜物」 歌詞に込められたやなせたかしの哲学

『あんぱん』の世界観と繋がる「賜物」の歌詞

 生きることへの嘆きが語られる一方で、曲全体に目を向けると限られた命で何ができるのか、その命を与えられた喜びも多く語られている。1番には〈いつか来たる命の終わりへと/近づいてくはずの明日が/輝いてさえ見えるこの摩訶不思議で〉、2番には〈時が来ればお返しする命/この借り物を我が物顔で僕ら/愛でてみたり/諦めてみだりに思い出無造作に/詰め込んだり/逃げ込んだり/せっかくだから/唯一で無二の詰め合わせにして返すとしよう〉がある。こういったフレーズからは『あんぱん』の元になっているやなせたかしの哲学が反映されたアンパンマンのマーチの歌詞〈なんのために生まれて/なにをして生きるのか〉や、それを元にした寛(竹野内豊)の「何のために生まれて何をしながら生きるがか」というセリフとの繋がりを感じさせる。嘆かざるを得ないこの世界で与えられた限りある命で何ができるのか、何をするのかという大きなテーマを野田らしく解釈したフレーズと言えるだろう。

 また、「賜物」の歌詞には〈君が握ってて〉〈君に託した〉など“君”という言葉が数多く登場する。2番では〈それでも君と生きる明日を選ぶよ〉絶望でさえ追いつけない/速さで走る君と二人ならば〉という歌詞もあり、君は共に生きる相手であり、一緒に速く走る人であることから、君=のぶであることを想起させる。また、君=のぶであるならば「賜物」の歌詞自体が嵩視点であると考えられる。のぶは幼少期から嵩のピンチで彼の心に寄り添い、支えてきた。『あんぱん』のモデルとなっているやなせたかしと小松暢の人生を踏まえると、今後の展開でものぶが嵩を力強く支え、後押しする場面が多いことが予想できる。タイトルの「賜物」とは、それぞれに与えられた限りある命であると同時に、嵩の人生におけるのぶの存在そのものなのかもしれない。

 第10週やそれ以降の展開では戦争がさらに激化し、人生への嘆きや悲しみのパートが続くと予想される。嵩とのぶがなんのために生まれたのかを自覚して動き出すのは、戦後になるだろう。まずは、悲しみの頂点となるであろう戦争を乗り越える嵩とのぶを「賜物」と共に見守っていきたい。

■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、加瀬亮、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、細田佳央太、高橋文哉、中沢元紀、大森元貴、二宮和也、戸田菜穂、浅田美代子、吉田鋼太郎、竹野内豊、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK

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