『あんぱん』阿部サダヲと竹野内豊は“良心”の象徴だった 「絶望の隣は絶望の2丁目」の重み

『あんぱん』絶望の隣は絶望の2丁目の重み

 寛は御免与町の良心だったのではないだろうか。患者を大事にして忙しくても往診を欠かさなかった寛。彼によって御免与町の健康は守られていただろう。さらに、彼は前述したような「絶望の隣は希望」というような生きる希望を語り続けてきた。「何のために生きるか」を問い、誰かに言われたことに従うのではなく、自分の心に正直に、自分のやりたいことをやることを、嵩や千尋(中沢元紀)に勧めた寛。自分に気を使って、医者の後を継がなくていい、好きなことをやればいいと自由にしてくれた寛。その人が亡くなった途端。御免与町には同調圧力がじわじわと加わってくるのだから、寛とはこの町の精神的防波堤のような存在だったと言っていいのではないだろうか。

 さらに、屋村はねじれてはいるが良心の持ち主である。もともと、兵隊になって国のために戦うことには反対だった。

 寛の死後、思い直して、医者になろうと勉強をはじめた千尋に、「人間、得手、不得手があって当たり前だ。神様がわざわざそう作ったんだからさ」「どんなにがんばってもこわいものはこわい。やなことはやなんだよ」「お前はお前の人生を生きろ」「適当だよ、適当に生きるって決めたんだ。適当は気楽でいいぞ。なあ優等生」と助言する。

 寛は寿命を縮めても医療という自分のやりたいことをやり、屋村はやりたくないことからとことん逃げる。でも、朝田家のために乾パン作りのコツを教えて去っていく。そこに人情が滲む。やりたくないことはやりたくないと言いながら、他者のことを見捨てることはできないのだ。てっきり、レシピが屋村の頭のなかにあって、それをのぶたちに伝授したくないのかと思って見ていたら、レシピは軍のものがあった。屋村の技術力がたぶん超絶G難度級で、羽多子(江口のりこ)にはとうてい身につかないものだったのだろう。ということはさておき。こうして、町の良心・寛を失い、もうひとり、助っ人のような良心・屋村も去っていき。御免与町は軍の思いのままになる人ばかりになってしまった。のぶも軍や学校の意向を聞く側である。これから御免与町はどうなってしまうのだろう。次週予告によれば、嵩が出征してますます戦争が色濃くなる。

■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、加瀬亮、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、細田佳央太、高橋文哉、中沢元紀、大森元貴、志田彩良、二宮和也、瀧内公美、山寺宏一、戸田菜穂、浅田美代子、吉田鋼太郎、竹野内豊、阿部サダヲ、妻夫木聡、松嶋菜々子
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK

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