『おっさん剣聖』『闇ヒーラー』『星間国家』 2025年春アニメの“なろう系”は主人公が強烈?

小説投稿サイト「小説家になろう」から生まれたムーブメントとして、一大ジャンルを築いている“なろう系”。いま、このジャンルの最先端ではどんな作品が生み出されているのだろうか。本稿では4月頃から放送が始まった2025年春クールのなろう系アニメを取り上げ、その主人公像や世界観の設定などについて紹介していきたい。
『片田舎のおっさん、剣聖になる』
まず今期の話題作といえば、『片田舎のおっさん、剣聖になる』。OP主題歌を西川貴教、ED主題歌をFLOWが担当している上、主人公の声優を『ONE PIECE』のサンジ役や『パイレーツ・オブ・カリビアン』ジャック・スパロウ役などで知られる人気声優・平田広明が演じているという豪華なアニメだ。
異世界転生ものではなく、本格ファンタジーに近い設定で、剣と魔法の世界が舞台となっている。主人公のベリルは片田舎にある剣術道場の師範として長年暮らしていたが、かつて剣を教えた弟子・アリューシアが彼を王国騎士団付きの特別指南役に推薦。王国にやってきたベリルは規格外の剣術を見せ付け、「片田舎の剣聖」として世間に認められていく。
同作の特徴は、ベリルが立派な人間性を持っていることだ。圧倒的な実力を秘めているにもかかわらず、それを自慢する素振りは一切なく、むしろ「しがないおっさん」だと謙遜してばかりいる。それもたんなるポーズではなく、立ち合いの際には相手への敬意をつねに忘れず、勝利しても「たまたま相性がよかっただけ」と言い放つ……。剣術師範のお手本のような人格者だ。

また作中には多数のヒロインが登場するが、ハーレムもののような軽薄な展開は描かれない。というのもベリルは年相応の落ち着きを身につけている上、硬派な性格で、歳の離れた弟子たちに不埒な感情を抱くことがないからだ。そうした前提があるからこそ、ベリルがヒロインたちに慕われているという描写に説得力が与えられている。
実力だけでなく人間性もすぐれた主人公を描いた同作が人気を集めているのは、ある程度年齢の高い視聴者層に「しっかりした大人の主人公が見たい」というニーズがあることを示しているようにも思われる。
『一瞬で治療していたのに役立たずと追放された天才治癒師、闇ヒーラーとして楽しく生きる』
いわゆる“おっさん”ではないものの、達観した主人公像という意味では、『一瞬で治療していたのに役立たずと追放された天才治癒師、闇ヒーラーとして楽しく生きる』にも共通する部分がある。
同作の主人公・ゼノスは、仲間の傷を治す治癒師として冒険者パーティに所属していたが、ある日役立たずだと罵られ、パーティから追放されてしまう。元々治癒師としての教育を受けておらず、公的なライセンスを持っていなかった彼は、ひそかに治療院を開業し、“闇治癒師”として働き始める。ジャンルとしては「追放系」の物語にあたる。

とはいえ、ゼノスはドロドロとした復讐心に突き動かされてはおらず、クールに見えて善良な性格だ。また高度な治癒を行うことが可能だが、独学だったためか自分の実力をあまり理解しておらず、傲慢なところが一切ない。
そして作中にはエルフの少女・リリにアンデッドのカーミラ、貧民街を支配する亜人たちのゾフィア、リンガ、レーヴェなど、多数のヒロインが登場するが、ゼノスはほどよい距離感で親しくしている。こうした特徴からいって、幅広い年齢層が共感できる性格の主人公と言えるだろう。
『俺は星間国家の悪徳領主!』
その一方、昔ながらの伝統を受け継いだなろう系アニメも放送されている。平凡なサラリーマンの異世界転生を描いた『俺は星間国家の悪徳領主!』だ。
主人公は前世では真面目な性格で、妻と娘を養うためにコツコツと働いていたが、ある時手酷い裏切りを受けてしまう。しかし孤独に死んでいく間際、「案内人」と名乗る人物が目の前に登場。さまざまな世界に転生できる権利を提示され、ロボットが宇宙空間を飛び回るSF的世界を選ぶ。
そして転生した主人公は帝国の辺境を治める伯爵家の息子、リアム・セラ・バンフィールドとなり、これまでのように搾取されるだけの真面目な生き方ではなく、自分の欲望のままに「悪のかぎりを尽くす」ことを決意するのだった。とはいえ実際にやることは悪徳領主どころか名君に近く、領地をみるみる発展させていく。
科学と魔法が発展したSF的世界と、中世ファンタジー風の封建制社会を融合させたユニークな世界観も大きな見どころだ。





















