『マインクラフト/ザ・ムービー』が示唆する映画界の変容 ハリウッド映画とゲームの関係

とくにゲームファンは長い間、人気ゲームの映画化に対して良いイメージを持っていなかった事情がある。それは、映画が原作ゲームをリスペクトしていないように見えていたという点があったためだ。映画がゲームをあくまで題材やインスピレーションにとどめ、ファン以外の観客にも楽しんでもらえることを意図し、異なる魅力を作りあげるというのが、ハリウッド映画のゲームとの向き合い方だった。
それは一つの真っ当な姿勢のように感じられるが、ゲームの興奮をできる限りそのままのかたちで体験したいと思う観客にとって、その点がフラストレーションとなっていたのも実情であった。その状況が変わってきたことを象徴するのが、『ソニック・ザ・ムービー』(2020年)のキャラクターデザインが、ファンの抗議を受けて原作に忠実なものに変更された出来事だろう。同作がヒットした要因には、この対応への評価が大きかったといえる。
この一件以来、各映画会社は“原作ゲームへのリスペクト”が、少なくともいまヒットを起こす要因であることを学習し、コアなファンの意向に沿う作品作りが優先される、ゲーム原作映画のタイトルが増えていったと見られる。本作『マインクラフト/ザ・ムービー』のヒットを受けて、その流れは加速していくのかもしれない。とはいえ、ゲームの価値観を優先し、いわゆるファンのなかで盛り上がれる“イースターエッグ探し”や、“原作の忠実さやリスペクトの確認”などが価値観のど真ん中にくるような状況になっているのだとすれば、それがいつまで支持されるのかという懸念もある。
カルト的な小規模スリラー映画を撮っていたアダム・ウィンガード監督が、『ゴジラvsコング』(2021年)や『ゴジラxコング 新たなる帝国』(2024年)などの超大作娯楽映画を手がけたように、今回うまくフィットしたとはいえ、ジャレッド・ヘス監督がこの種の映画を撮り、おそらくは続編も手がけるという展開は、従来の映画ファンにとって複雑な思いを抱かせるかもしれない。なぜなら、やはり本作のなかで最も楽しく、監督のテイストが感じられる部分は、『マイクラ』世界の導入である学校を舞台にしたパートなどにあるからである。
筆者は、映画監督は2つのタイプに分けられると考えている。それは、「スタイリスト(センス重視型)」と「アーキテクト(構築志向型)」だ。前者は過去の作品からの影響や自分の感性を頼りに、サンプリングやインスピレーションを活かして映画を撮る。後者は比較的数が少ないが、ジョージ・ルーカスやジェームズ・キャメロン、ピーター・ジャクソン、ギレルモ・デル・トロのように、“ものづくり”の魂を通して世界を構築していく。監督にならなかったら、美術スタッフや特殊メイクアーティスト、技術者になってたような映画人だ。同じような分類に、オタクを「ギーク」と「ナード」に2分する方法もある。
ヘス監督が独特な世界観を生み出しつつも、やや「スタイリスト」や「ギーク」に傾く性質であることを考えると、“創造性”が主題となる本作によりふさわしかったのは、「アーキテクト」監督だったのではないかという気がする。こちらの方が、ものを作ることの充実感を、オタク的な探究心を含めて、さらに深いところまで描けたのではないだろうか。とはいえ、個々の場面の滑稽さを強調し、面白がってみせるスラップスティックなスタイルが、とくにプレイ動画だったり、TikTokなどのショート動画を日常的に楽しむ若い世代のゲームの感覚に同調し、強い価値を生み出していたというのも事実。その意味で本作は、単純ながら新たな感覚を掘り起こした作品だといえよう。
一方で、『レディ・プレイヤー1』(2018年)同様に、ゲームプレイを楽しんだら、そこで得たものを現実に持ち帰り、現実の方も充実させようという、前向きな姿勢が盛り込まれているところは、一部のゲームファンの興をやや削ぎながらも、ゲームに熱中することが“逃避”ではなく、創造の予行練習になり得ることを示した倫理的な部分だといえるだろう。“創造性”というものは、もちろんゲーム以外のさまざまな可能性へと繋がっている。ゲームを通して、その重要性や、一人ひとりの生き甲斐との関係を示唆したことが、本作がゲームを基に描き得たポジティブな面だといえるのだ。
■公開情報
『マインクラフト/ザ・ムービー』
全国公開中
出演:ジェイソン・モモア、ジャック・ブラック、エマ・マイヤーズ、ダニエル・ブルックス、ジェニファー・クーリッジ、セバスチャン・ユージン・ハンセン
監督:ジャレッド・ヘス
配給:ワーナー・ブラザース映画
©2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
公式サイト:minecraft-movie.jp
公式X(旧Twitter):@minecraft_mjp

























