『マインクラフト/ザ・ムービー』が示唆する映画界の変容 ハリウッド映画とゲームの関係

史上最も売れたゲームソフト、『Minecraft(マインクラフト)』。ブロックで構築されたデジタル上の世界を舞台に、広大なフィールドをまるで“砂場”のように作り変えていけるというところが特徴で、プレイヤー自身の創造性を発揮できるところが、子どもから大人まで、幅広い層から人気を集めている理由だ。
そんな、日本でも『マイクラ』と呼ばれて親しまれている人気ゲームが実写映画化された『マインクラフト/ザ・ムービー』もまた、公開後に脅威的な売り上げを記録し、現時点で2025年最大のヒット映画となっている。ここでは、本作『マインクラフト/ザ・ムービー』の描いたものと、特徴的な内容が示唆する映画界の変容の萌芽について語っていきたい。
物語の起点となるのは、立ち入り禁止の鉱山の中に入ってみたいという子どもの頃からの夢を、大人になって叶えたスティーブ(ジャック・ブラック)だ。彼はそこで不思議なキューブを発見することで、『マイクラ』の世界へのポータルを開くことになる。彼はそこで創造性を最大限に発揮して楽園を築いていくが、原作ゲームの「ピグリン」を新たに解釈した、ピグリン軍団率いるブタの女王に捕らえられ、奴隷となってしまう。
数年後、豊富な鉱物資源を誇るアイダホ州の小さな町では、落ちぶれた元ゲームチャンピオンのギャレット(ジェイソン・モモア)が、スティーブの倉庫からキューブを手に入れていた。新たに町に引っ越してきた姉弟ナタリー(エマ・マイヤーズ)とヘンリー(セバスチャン・ハンセン)、そして移動動物園を営むドーン(ダニエル・ブルックス)は、ギャレットとともに『マイクラ』の世界へと迷い込むのだった。
本作の特徴は、こういった導入や、『マイクラ』世界での冒険を、きわめてスラップスティックに描いていくというところだ。スティーブとギャレットが飛行しながら空中で複雑にハグをして窮地を乗り越えていく、バカらしいシーンに代表されるように、日本でいう「コロコロコミック」などのような少年ギャグ漫画的展開やノリが散りばめられている。そして、おかしな場面の連続のはずなのに、その異様さが劇中でとくに触れられずに放置されてもいる。
演出によって、この雰囲気をかたちづくっているのが、『ナポレオン・ダイナマイト』(2004年)や『ナチョ・リブレ 覆面の神様』(2006年)のジャレッド・ヘス監督だと言えば、納得できる映画ファンも少なくないかもしれない。ふざけたシーンをとぼけたユーモア感覚で描くスタイルが、本作でも全体を覆っているのである。
また、世間の価値観からはぐれてしまっている人々への優しいまなざしがあるというのも、ヘス監督の特徴だ。本作におけるスティーブやギャレットのような中年男性が、『マイクラ』の世界にハマっていたり、昔のゲームチャンピオンの肩書きにしがみついている様子について、現実に起こるだろう苦しみをそこに投影させつつも、否定するような描き方はしていないのだ。ジェニファー・クーリッジ演じる女性が、現実の男性よりも誠実な『マイクラ』世界の住人に恋愛感情をおぼえる場面もある。これらキャラクターは、ゲームのさまざまな魅力にハマる現実の人々の象徴となっているといえよう。
ヘス監督の優しさや不思議なユーモア感覚は、おそらく計算されたものではないにせよ、『マイクラ』をはじめとするゲームに熱中したりのめり込むようなプレイヤーたちを肯定的に楽しく描くことに寄与し、上の世代のゲームファンや、『マイクラ』やそのプレイ動画などを日常的に楽しんでいる、Z世代以降の観客を取り込もうとする本作の意図にフィットしていたと考えられる。
アメリカでは、ゾンビの子どもがチキンに乗った状態のレアキャラ「チキンジョッキー」が出てきたシーンが、ゲームのファンに大ウケだったのだという。これは、とくにティーンエイジャーの間で大きな話題となり、ミーム化されることとなった。一部の観客は、上映中に叫んだりポップコーンを投げる、ひどいケースでは生きたニワトリを持ち込むなどの行為に及び、出演者のジャック・ブラックが注意喚起する事態にまで発展したのである。
こういった世代間ギャップが引き起こす状況をプラスに利用し、一部の劇場では、観客が自由に歓声を浴びせたり歌うことのできる「ブロックパーティー・エディション」なる特別上映がおこなわれるなど、新たな映画の消費の形態に、映画の作り手や映画館が柔軟に対応するようになってきている。























