『あんぱん』はなぜ“何のために”を繰り返し問うのか 中園ミホが継承するやなせたかしの心

『あんぱん』中園ミホが継承するやなせたかし

 嵩は晴れて東京の美術学校に合格し、絵の道に進んでいく。一方、のぶは教師を目指して女子師範学校に入ったが、そこには黒井雪子(瀧内公美)というスパルタ教師がいた。家族のために教師を目指すというのぶに、お国のためであれと説く黒井。「たくましく、かつ日本女子の美徳であるしとやかさ、節度、両方を兼ね備えるべき」で「愛する祖国に全身全霊で尽くす」ことを強烈に押し付けてくる。すでに、うさ子(志田彩良)はすっかり感化されてしまった。のぶも時間の問題か。純粋で、真面目で、負けず嫌いなところもあるのぶは、まんまと黒井の話術にハマってしまいそうである。

 のぶもうさ子と同じく、お国のために強くなっていくのか。のぶにとっての「何のため」は「お国のため」に変わっていく。

 人間の心は脆く、あたかもシーソーのように傾きを変えてしまいがちだ。それを第5週ではいくつものエピソードで見せる。

 のぶと同じく家を大事にしている蘭子(河合優実)が突然結婚を決めようとする。にわかに持ち上がった縁談に最初は興味がなさそうだったのに、豪(細田佳央太)に勧められて気が変わる。これは、豪のことを想っているのに彼が自分に気がないと勘違いしてのこと。でも、のぶとメイコ(原菜乃華)のおせっかいによって考え直すことになる。もしのぶとメイコが割って入らなければ蘭子は結婚してしまったかもしれないのだ。それくらい人生は意外と容易に方向転換してしまう。

 嵩と同郷の漫画家・横山隆一のマンガ『フクちゃん』は当初、違う人物・健ちゃんが主人公の漫画だった。それがいつの間にかフクちゃんが主人公の漫画に変わった。新たな登場人物・辛島健太郎(高橋文哉)は主人公が自分と同じ名前でなくなったことに不満を抱いていた。その理由を嵩は横山がフクちゃんに思い入れを強くしたからと想像する。「フクちゃん」の歴史を紐解くと、フクちゃんはさらにこのあと、変容を遂げていく。戦争がはじまると戦意高揚の内容に変わっていくのである。のぶの変化をフクちゃんが予言しているかのようで、ちょっとドキドキしてしまった。

参照
※ https://diamond.jp/articles/-/363763

■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、加瀬亮、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、細田佳央太、高橋文哉、中沢元紀、大森元貴、志田彩良、二宮和也、瀧内公美、山寺宏一、戸田菜穂、浅田美代子、吉田鋼太郎、竹野内豊、阿部サダヲ、妻夫木聡、松嶋菜々子
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK

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