『あんぱん』はなぜ“何のために”を繰り返し問うのか 中園ミホが継承するやなせたかしの心

朝ドラことNHK連続テレビ小説『あんぱん』第5週「人生は喜ばせごっこ」(演出:柳川剛)第25話で、嵩(北村匠海)の伯父・寛(竹野内豊)がこれまで発した名言「絶望の隣は希望や」「なんのために生まれて何をして生きるか」を再度語り、さらに新たな「人生は喜ばせごっこや」という名言を発した。これらは、嵩のモデルであるやなせたかしの数ある作品のなかにある言葉から引用されている。
『あんぱん』では嵩がやがて作家になったときに、幼少期の体験が作品を作る元になっているように作ってあるのだろう。とりわけ伯父の言葉が嵩に強く印象づけられたことになっている。史実原理主義者からは、伯父の受け売りではなく、嵩自身の脳内からこの言葉が生まれたように描いてほしいと指摘されることは容易に想像がつく。にもかかわらず、なぜ伯父の言葉にしているのか。そこには歴史や思いをバトンのように手渡しながら伝え続けることの重要性を感じる。誰が言ったという事実も大事ではあるが、言葉やそこにこもった哲学や思想を伝承していくことがなによりも大事である。寛もおそらく、この言葉をオリジナルで生み出したわけではなく、彼の父や祖父、恩師から伝え聞いたのかもしれない。そして今度は、視聴者たちが身近な誰かに伝えていく。私は誰に伝えよう。そんなことを考えた第5週であった。

ちなみに、脚本家の中園ミホはインタビューで、何をやってもうまくいかない時期は、「他者のために頑張ることでのちのちの自分の足腰を強くする」と考えていると語っていた。「他者のために頑張る」は「人生は喜ばせごっこ」(他人のが喜ぶことをする)とも意味が重なる。言葉は若干違うが、やなせの心を中園が引き継いでいるのだと筆者は感じた。『あんぱん』も、占いによると何をやってもうまくいかない時期に当たるが、「本当に24時間、皆さんのために頑張って書いています」と言うのだ。(※)

やなせ語録も多いが、あんぱん登場率も高い。御免与町では主食があんぱんなのかと思うほど、のぶ(今田美桜)たちはあんぱんばかり食べている。一応、朝田家ではお祝いごとにはあんぱんを食べることになっていると語られていたが、第5週では、嵩が東京の美術学校に合格し、東京土産に思い出の美村屋のあんぱんを寛に買ってもらって、のぶに渡す。ヤムおんちゃんこと屋村(阿部サダヲ)は合格祝いにあんぱんを嵩のために持ってきていた。「あんぱんとあんぱんの物々交換」と屋村が苦笑する。のぶはあんぱんをもらって、辟易することもなく、心からうれしそうに笑顔になっていた。みんなあんぱんが大好きだ。だが、単にあんぱん推しなだけではない。さりげなくもあざとく、屋村が美村屋で職人として働いていたことを視聴者が気づくような演出が施され、屋村の過去が気になるようになっている。あんぱんが登場人物たちを結びつける小道具になっている。これもまた、嵩がやがて作品を描く大事な要素になっていくだろう。




















