“物語を書けない”脚本家が弔辞を通じて得た人生のヒント 心に残り続ける『来し方 行く末』

『来し方 行く末』が心に残り続ける理由

 終盤、依頼人の1人である、ベンチャー企業の創業者の仲間たちがそれぞれの故人への思いを吹き込んだ録音が流れる。その中の「彼は普通に見えるが、人とは違っていた」という言葉が気になり、依頼人のルー(ガン・ユンチェン)に「彼は普通の人だった?」と問いかける。それに対し、ルーは「知り合って長いと、変わった人も普通に思えるだろ?」と答える。「普通の人が出てこないから、物語(を作るのは)は苦手」だと思っていた彼は、そこに自分自身の人生を動かすためのヒントを見つける。

 これは、「普通の人」たちの映画だ。「普通の人」の日常は、「長いこと知っているから普通に見える」だけで、傍から見るとちょっと変わっていて、特別なことで溢れている。ウェン・シャンの一見ありふれた日常が可笑しみで溢れているように。彼のパソコンの変換候補には、作りかけの物語の登場人物だけでなく、これまで書いてきた弔辞の対象である、今はもういない無数の人々の名前もあることだろう。彼の「知人」は日々を重ねるごとに増えていき、彼はそんな、無数の「普通の人たち」の人生の物語の断片を、大切な宝物のように抱えて、これからも生きていく。本作は、そんな彼と、彼の「知人」たちの、愛すべき日々の物語である。

■公開情報
『来し方 行く末』
4月25日(金)より、新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国順次ロードショー
監督・脚本:リウ・ジアイン
出演:フー・ゴー、ウー・レイ、チー・シー、ナー・レンホア、ガン・ユンチェン
配給:ミモザフィルムズ
2023年/中国/中国語/119分/カラー/1:1.85/5.1ch/原題:不虚此行/字幕:神部明世
©Beijing Benchmark Pictures Co.,Ltd
公式サイト:https://mimosafilms.com/koshikata/

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