救いようのないダークな物語『悪縁』にみる、韓国と日本における“倫理観”や“道徳感”の違い

人生を送っていれば、一人や二人くらいは、「消し去ってしまいたい……!」などと思ってしまうような相手が、誰にでもいるのではないだろうか。Netflix配信の韓国ドラマ『悪縁』(全6話)は、ウェブトゥーン(韓国発の縦スクロール型ウェブ漫画)を原作に、そのような“消し去りたい”因縁で繋がれた者たちを中心にまわる人間ドラマを描いたシリーズだ。
悪意や殺意、身勝手な欲望、そして犯した罪や復讐心が、ぐるぐると登場人物の運命とともに不気味にまわりつづける……。このドロドロとした感情がぶつかり合うさまは、いかにも韓国ノワールらしい世界観だといえよう。
ここでは、そんな本シリーズ『悪縁』の内容に言及し、その魅力に迫るとともに、さまざまな描写から垣間見える、韓国ドラマや韓国映画における倫理観、道徳観を、日本のそれと比較することで、できる限り根本的なところから探っていきたいと思う。
韓国の映画やドラマでは近年、漫画やウェブトゥーンを原作としたタイトルが増えてきている。実写ドラマでは『梨泰院クラス』、『マスクガール』や『ムービング』、アニメシリーズの『外見至上主義』やアニメ映画『整形水』(2020年)などなど、もともと強烈さが特徴の一つであった韓国の映像業界は、韓国社会の問題を背景に、視聴者や観客の強い感情や好奇心にうったえかける力をウェブトゥーンからも得ているのである。
本シリーズ『悪縁』の登場人物たちは、とくに強烈だ。第1話の中心となるのは、「借金男」ことジェヨン(イ・ヒジュン)。仮想通貨の投資で大損し、「期限内に金を返さなければ臓器を売る」と、闇金業者に脅されている。精神的に追いつめられた借金男は、なんと自分の父親をわざと車で轢き逃げして殺害することで多額の保険金を手に入れるという、悪魔的な計画を思いつく。しかも、その実行を中国から来た朝鮮民族のギルリョン(キム・ソンギュン)にアウトソーシングするのだった。本当に、ひどい人間だ……。
第2話の中心となるのは、韓国式漢方医でクリニックを経営する、「メガネ男」ことサンフン(イ・グァンス)。彼はユジョン(コン・スンヨン)という恋人とデートを楽しんでいたが、夜中のドライブ中に誤って人間を跳ね飛ばしてしまう。すぐさま救急車や警察に連絡するべきだが、酔っていた彼は自身が重罪になることを予期し、卑怯にも隠蔽しようとする。さらに、それを目撃していた男「目撃男」(パク・ヘス)を拉致し、殴打した上にカネで口止めしようとするのだ。なんと極悪なのだろうか……。
本シリーズは、このように倫理観のぶっ飛んだ悪人が次々に登場する。そして、そんな悪人たちもまた、異なる悪人によって苦しめられることになるのだ。展開を楽しんでもらうために詳述はしないが、最初は関係ないと思われていた個々の事件は次第に繋がりを見せ、悪人が他の悪人を「殺してやりたい……」とまで憎悪するという、なんとも皮肉な構図が、いくつも生まれるのである。正義が悪を裁くのではなく、より強いワルがワルの天敵となる……。この救いようのないダークな物語が、本シリーズの醍醐味といえよう。
しかし第4話では、それとは毛色の異なる悲痛な物語が描かれる。第4話の中心となる、総合病院に勤務する女性ジュヨン(シン・ミナ)は、担当患者となった重症の男性の名前を見て大きく動揺する。その名は、まだ学生だった頃のジュヨンに性的暴行を加えた人物のものだったのだ。いまも精神的外傷によって悪夢にうなされている彼女に、復讐の機会が巡ってきたのである。怒りに燃えるジュヨンもまた、運命の渦に巻き込まれていく。