『侍タイムスリッパー』『トワイライト・ウォリアーズ』 ブームを牽引する“ファンダム”の存在

『侍タイ』『トワウォ』ブームの起爆剤とは

 今に始まったことではないが、SNS発祥のブームをきっかけに公開規模が拡大したり、上映期間が延長されたりすることが目立つ作品が増えたように思う。たとえば1月17日公開の『トワイライト・ウォリアーズ 決戦! 九龍城砦』は3カ月経った今でも吹替版が上映されたり、オリジナルグッズの販売が盛り上がっていたりと、相変わらず人気沸騰中である。異例のヒットといえば、2024年に公開された邦画『侍タイムスリッパー』も自主制作映画としては異例の興行収入を記録したことも記憶に新しい。しかし、この2作がヒットした要因は“ただの口コミ”だけではない。その背景で一体何が起きているのか、今後の実写映画ヒットに大きく貢献する要素とは何なのか今一度考えてみたい。

大ヒットするインディ映画の共通項

 元々の公開規模が少ない作品が、口コミが広がってヒットしていく現象は珍しくない。やはりその例で印象的なのは2017年公開の『カメラを止めるな!』だ。本作は予算300万円、新宿K’s cinemaでのイベント上映を経て、同館と池袋シネマ・ロサにて単独劇場公開がされたインディ作品である。しかし、SNSでの口コミで評判が広まり、公開の翌月にアスミック・エースが共同配給になることが発表され、順次100館以上の上映拡大が行われた。最終的に353館で222万人の動員を記録し、興行収入も約31億円にまで上り詰めた。予算を考えると、驚異的な結果である。

『侍タイムスリッパー』©2024未来映画社

 これに近しい現象が、『侍タイムスリッパー』にも起きたのだ。本作もシネマ・ロサで公開されたのちに、川崎チネチッタで公開。その後ギャガが配給に加わり全国のシネコンでの公開が決定した。こういった経緯が『カメラを止めるな!』の再来と言われる所以であり、監督の安田淳一も「『カメ止め』のようにインディーズ映画がすごくヒットするというのは奇跡のようなもので、もう今後はできないだろうという人もいました。でも、劇場の中で大きな笑い声が起きて、最後に拍手が起こるという現象を起こせるのであれば、脚本自体はオーソドックスなものを突き詰めていっても可能なんじゃないかなと考えました」とコメントしている(※)。

 確かに『カメラを止めるな!』と共通する部分も多く、ロサの編成担当者に先見の明があることも間違いない。加えて、ロサに普段から通う常連客も普段からインディ映画に慣れ親しんでおり、その中で見つけた良作を口コミで広めていくことに対して積極的なように感じる。発火地点が地点なだけに、こういったヒットに繋がったといえばそれまでかもしれないが、『侍タイムスリッパー』は映画や時代劇そのものに対する熱い想いを抱えた脚本やキャラクターの魅力、つまり映画そのものの良さが起爆剤だった。特にキャラクターの魅力は、1月半ばに公開された『トワイライト・ウォリアーズ 決戦! 九龍城砦』の大ヒットにも共通しているように感じる。

“推し活”文化との合流

『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』©2024 Media Asia Film Production Limited Entertaining Power Co. Limited One Cool Film Production Limited Lian Ray Pictures Co., Ltd All Rights Reserved.

 『トワイライト・ウォリアーズ』も、ものすごい作品である。九龍城砦を舞台に、そこに住む者と裏社会勢力の戦いを描く本作は、原作が漫画なだけあって設定も、キャラクターも非常に二次元的だ。しかし、そこに現実で九龍城砦やあの頃の香港が直面していた問題が描かれることで、「あの頃、あそこに本当に彼のような人々が住んでいたのかもしれない」と観客に思わせるリアリティがあった。

 主人公の陳洛軍をはじめ、龍捲風、信一、四仔、十二少などなどメインキャラクターが揃いも揃って気が動転してしまうくらいにカッコいい。そんな彼らのいわゆる“関係性萌え”のようなものがファンに映画を深掘りさせ、さらなる理解を与えることで沼に堕としていく。やはり漫画原作なだけあって、キャラクターには普通の実写映画にない雰囲気があり、しかしそれを役者の持つ説得力と演技で押し通す迫力がある。そう、彼らは“映画の登場人物”というにはあまりにも鮮烈な存在で、登場人物というよりは“キャラクター”に近いのだ。

『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』©2024 Media Asia Film Production Limited Entertaining Power Co. Limited One Cool Film Production Limited Lian Ray Pictures Co., Ltd All Rights Reserved.

 そういった物語に限らずキャラクター人気の出る作品は、彼らにまた会いに行く感覚でリピートする観客も多い。それを踏まえたうえで、改めて「口コミで広まった作品」の広まり方や、ヒットの仕方を細分化していくと『カメ止め』と『侍タイムスリッパー』『トワイライト・ウォリアーズ』には少し違いがあるように思える。それは、“推し活”文化との合流だ。

『侍タイムスリッパー』©2024未来映画社

 もともと「関係性萌え」的な映画は前からあったし、“推し活”だって今に始まったことではない。しかし、“推し活”という言葉そのものが一般化し、社会的に広まった今と5年前では映画館の売り場の様子も違う。本来、インディ映画はグッズもあまり作られないため貢献の仕方といえばパンフレットを買ったり、口コミで広めたりするしかない。そして公式から供給されないものは、ファンがファンアートを投稿するなどしてコミュニティの中で盛り上がりを見せる。そういった需要を映画会社側が認知し、素早くグッズ化して応えるのが今の映画のヒットの中にある一つの、しかし非常に重要な起爆剤のように感じる。

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