『片思い世界』スロースタート 背景に「ネタバレ問題」と「一言で説明できない問題」

『片思い世界』スロースタートの背景は?

 4月第1週の動員ランキングは、『映画ドラえもん のび太の絵世界物語』が週末3日間で動員26万3000人、興収3億2300万円をあげて5週連続1位。公開から31日間の累計動員は317万1500人、累計興収37億9200万円。同じく5週連続で2位につけているのは『ウィキッド ふたりの魔女』。週末3日間の動員は11万6000人、興収は1億9400万円。先行上映含む公開から31日間の累計動員は167万3500人、興収は26億4400万円。2025年の春休み興行は、最初から最後までこの2作の1、2フィニッシュで終えたことになる。

 その上位2作品の牙城を崩す可能性があるとしたら、4月4日に公開された土井裕泰監督、坂元裕二脚本作品の『片思い世界』だったが、オープニング3日間の動員は8万1000人、興収は1億1600万円と少々鈍い出足となった。坂元裕二脚本作品では、公開9週目に入った『ファーストキス 1ST KISS』が先週末もまだ9位(公開から59日間の累計興収26億2100万円)とロングヒット中。同じ脚本家の作品がトップ10圏内に2作品同時ランクインというのは快挙ではあるものの、『片思い世界』の初動成績は『ファーストキス 1ST KISS』との比較で46%。公開規模の違いはあるが、思いのほか差がついてしまったかたちだ。

 より公開規模の近い作品、というか同じ東京テアトルとリトルモアの配給で、出演者以外(清原果耶は連続して出演)は『片思い世界』とほぼ同じ座組だった2021年1月公開の『花束みたいな恋をした』の初動成績との比較では61%。最終興収38.1億円(実に初動成績の約20倍)を記録した『花束みたいな恋をした』の興行の特徴は口コミやネットでの評判による驚異的な持続力にあったので、『片思い世界』もそのコースを狙っていくことになるだろう。

 『片思い世界』の初動に勢いがつかなかった理由の一つは、その物語の特質上、宣伝で作品の内容を詳しく伝えることができなかったからだろう。多くの観客は、坂元裕二、そして広瀬すず、杉咲花、清原果耶らメインキャストの名前と、『片思い世界』という抽象的なイメージしか喚起させない作品タイトルだけを頼りに映画館に足を運ぶこととなった。きっと、そこにこそ本作の作り手サイドの意図があるわけだが、映画には宣伝しやすい作品としにくい作品があって、『片思い世界』が後者であるというのは、試写で観た際に「ネタバレ禁止」を言い渡された時点で予想はできた。

 ただ、この件が難しいのは、仮に公開前にネタバレ部分が解禁されていたとしても、それが興行にどのような好影響、あるいは悪影響を与えることになるかはわからないことだ。また、一般的にネタバレに過敏な観客が増加している傾向(以前はネタバレの前段階とされるような内容であってもそれをネタバレと受け止める人も少なくない)が見られる一方、『片思い世界』という作品の持つ魅力において実はネタバレ自体はそれほど大きな要素ではない(それも観客によって受け止め方は違うだろうが)という側面もある。いずれにせよ、興行分析記事として指摘せざるをえないのは、実写作品でもアニメーション作品でも、一言で内容を説明できないオリジナル作品が大ヒットするのは非常に稀であるということだ。

■公開情報
『片思い世界』
TOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国中
主演:広瀬すず、杉咲花、清原果耶、横浜流星、小野花梨、伊島空、moonriders、田口トモロヲ、西田尚美
脚本:坂元裕二
監督:土井裕泰
配給:東京テアトル、リトルモア
©︎2025『片思い世界』製作委員会
公式サイト:kataomoisekai.jp
公式X(旧Twitter):@kataomoi_sekai

『今週の映画ランキング』(興行通信社):https://www.kogyotsushin.com/archives/weekend/

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