桜井ユキから幸せのおすそ分け 『しあわせは食べて寝て待て』が示す人生100年時代の生き方

NHKドラマが示す人生100年時代の生き方

 一方で、本作は買おうとした食材が高くて棚にそっと戻す時の惨めさも包み隠さず描いてくれる。かつては外食したり、スーパーやコンビニで出来合いのものを買ったりするより、自炊する方が明らかに安かった。しかし、野菜もお米も高騰している今、特に一人暮らしの場合は自炊する方が案外高くつく。SNSで見かける丁寧な暮らしに憧れて実践してみるも、時間にもお金にも余裕がないと続けられないと分かり、しょんぼりした経験が蘇ってくるようだ。

 再び陰りを帯びたさとこの心を晴らしてくれたのは、鈴と司とのすき焼きパーティーだった。そこで、さとこは2人が本当の親子ではないことを知る。司が会社を辞めて放浪していた時に偶然鈴と出会い、そのまま一緒に暮らすことになったというのだ。現在はニートの司を養っている鈴。傍目から見ると歪な関係に思えるかもしれないが、司に料理や掃除をやってもらい、薬膳以外にもいろいろなことを教わっている鈴は「お手伝いさんが欲しいという夢が叶った」と満足げに語る。司とチャンネルを取り合い、元気よく部屋を走り回る鈴に、人生100年時代の生き方を見た。

 病気になり、仕事のキャリアもマンション購入も結婚も諦めたさとこは、順調に人生を歩んでいる友人との差が目について以前のように付き合えなくなったという。30代はいわば人生の過渡期だ。幸せになるために、一番もがく時期とも言える。だけど、平均寿命が延びて人生は長くなっているのだから、そんなに焦る必要はないのかもしれない。それこそ、鈴のように90歳になって夢を叶える人もいるのだから。いつか訪れる幸せを目一杯享受できるように、身体と心を整えておこう。

 ただ、そのために今の自分が苦しくなってしまったら本末転倒だ。司がさとこの頼みを断ったのは、かつて薬膳を教えた近所のおばあちゃんが持病の薬も飲まなくなり、家族からクレームを受けたことが理由だった。何でもやりすぎは禁物で、薬膳も自分の健康状態や経済状況とも上手く折り合いをつけながら取り入れる必要がある。お肉をたらふく食べた後、消化を助けてくれるパイナップルで辻褄を合わせたり、トウモロコシが高ければ、同じような効能を持つヒゲを使ったり。そういう緩い姿勢で続けていけばいいのだと司たちから教わったさとこだった。

■放送情報
ドラマ10『しあわせは食べて寝て待て』
NHK総合にて、毎週火曜22:00~放送
出演:桜井ユキ、宮沢氷魚、加賀まりこ、福士誠治、田畑智子、中山雄斗、奥山葵、北乃きい、西山潤、土居志央梨、中山ひなの、朝加真由美
原作:水凪トリ『しあわせは食べて寝て待て』
脚本:桑原亮子、ねじめ彩木
音楽:中島ノブユキ
演出:中野亮平、田中健二、内田貴史
制作統括:小松昌代(NHK エンタープライズ)、渡邊悟(NHK)
写真提供=NHK

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