橋本愛「映画の中だけで許されることをしたかった」 “念願の企画”で見えた新たな景色

橋本愛、“念願の企画”で見えた新たな景色

 数々の映画やドラマに出演し、第一線を走り続ける俳優・橋本愛にとって5年ぶりの主演映画『熱のあとに』は、2019年に実際に起きた新宿ホスト殺人未遂事件にインスパイアされた作品だ。橋本自身「念願だった企画」と力強く語る本作について、じっくりと語ってもらった。

「映画の中だけで許されることをしたいと思っていた」

橋本愛

ーーフェスティバル・アンバサダーを務められた2022年の東京国際映画祭以来の取材になりますが、今回の『熱のあとに』では東京フィルメックスと韓国の釜山国際映画祭にも参加されていましたね。

橋本愛(以下、橋本):東京フィルメックスは映画好きの方がたくさん集まる映画祭なので、私も緊張していたのですが、映画を好意的に受け止めてくださった方がたくさんいらっしゃったので、すごく嬉しかったです。釜山国際映画祭には初めて参加させていただいたのですが、学生の方が多くいらっしゃったのが印象的でした。Q&Aでも「そんなところまで見てくれているんだ」と感じるくらい、皆さんの熱量が伝わってきましたし、質問に対する監督の返答も面白くて、私自身、そこで初めて気づくこともたくさんありました。

ーー前回のインタビューでは海外を意識するようになったというお話をされていたのが印象的でしたが、早くも実現した形になりましたね。

橋本:確かにそうでした。この作品は撮影していたときから世界に届くだろうなと思っていたので、実際に海外でも受け入れられたことが嬉しかったですし、夢がひとつ叶ったと思える出来事でした。

熱のあとに

ーーこの作品への出演は、監督から直接お手紙をもらったことがきっかけだったそうですね。

橋本:これまでも作り手の方からお手紙をいただくことは何度かあったのですが、山本監督と(脚本の)イ・ナウォンさん、そして脚本しかない状態で、プロデューサーさんもいなければ制作自体もまだ決まっていない、まっさらな段階でのお話は初めてで。その時点で私に、と思ってくださったのが本当に嬉しかったですし、それだけで絶対にやりたいという気持ちになったんです。実際に脚本を読んでみても、やりたいという気持ちは変わらなかったですし、むしろずっとやりたかったと思える脚本だったので、私にとっても念願の企画でした。

ーー脚本のどういうところに惹かれたんですか?

橋本:まず、沙苗の言葉にすごく惹きつけられました。哲学的でもあるし、とても自分の深部まで潜った人の言葉だなと。彼女が紡ぐ言葉は、一読しただけでは全てを理解できないし、腑に落ちないところもたくさんあったのですが、自分自身辿り着ける気がすると思ったし、辿り着きたいと思いました。ナウォンさんと監督が見ている景色を私も見たいなと思ったことが大きかったです。

橋本愛

ーーわからないからこそ、わかりたかったところもあったと。

橋本:はい。もう1つは、10年くらい前からずっと狂いたいなと思っていて……。ただそれは日常生活では許されることではないので、映画の中だけで許されることをしたいと思っていたんです。この作品は安心して狂える作品だと思ったので、そういう点でも惹かれるところがありました。

ーー橋本さんにとって長編の主演映画自体がかなり久しぶりということもありますが、橋本さんの新たな代表作になり得る作品だと思いました。

橋本:そう言っていただけるとすごく嬉しいです。

熱のあとに

ーー題材自体はセンセーショナルなものを扱っていますが、描かれているのは普遍的な「愛」で、想像していなかったところに連れて行かれるような、不思議な映画体験でした。

橋本:事件の渦中を描くのではなく、“その後”を描いているのが私はすごく好きで。それは事件だけではなく何に対しても言えることなのですが、「そのあとどうするんだ」ということが知りたいし、見たいと思う。それをきちんと描いてくれているのが、私は嬉しかったんです。

ーーすごくよくわかります。映画を観ていても、「いや、このあとが観たいのに!」と思うことがよくあります。一方で、この作品には“事件後”の空白の6年間があるわけですよね。その描かれない6年間を役に落とし込むのは相当難しかったのではないでしょうか?

橋本:それがありがたいことに、その沙苗の6年間の日々を、ナウォンさんと監督が書いてくださったテキストがあったんです。それが具体的に書かれていて、すごく面白くて。パンフレットに載せていただきたいくらいなんですけど……(笑)。

橋本愛

ーーそうなんですね。どういうことが書かれていたんですか?

橋本:すごく印象に残っているのが、刑務所の中で過ごした日々を、沙苗は何も覚えていないということ。それと、出所した後にパン屋の工場でアルバイトをしていて、パンが出荷されるのを見ながら、ひとつひとつのパンに対して「さようなら」という気持ちで見送っていた、という描写があったんです。そこで沙苗のまた知らなかった一面が見えて、とても興味深いなと思いました。ナウォンさんが沙苗の中に入り込んで、一心同体になった状態で書いてくださったことがすごく伝わったので、私も追いつきたいという気持ちになりました。

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