『今日は少し辛いかもしれない』はただの“難病もの”ではない あまりに尊い“愛の回復”

例えば「おならが出たら良い兆候」という医師の助言を耳にしたチャンウクが、ダジョンのおならを今か今かと待ちわびているシークエンス。病室にいたジェホから「とうとう出た」と電話で知らせを受けた瞬間、講義中なのに思わず笑みがこぼれてしまい、「私も盲腸のときそうだったんです。おめでとうございます!」と受講生から祝福される。「オーガニックサムギョプサルの効能」では、ダジョンに何とかサムギョプサルを食べさせたいと思案した挙句、「冷めていたら美味しくない」と病院の駐車場で焼くことに。大の大人たちが車の影でコソコソ肉を焼く姿はどう見ても滑稽だ。
ジェホには友達以上恋人未満のヨジン(チョ・ヨジュン)がいて、浪人生になった引け目(韓国社会では大学入試が人生を残酷に左右する)もあり少しナーバスだ。ダジョンの看病で疲労が溜り気が散っているジェホは、つい無神経な発言をしてしまい、そのまま距離を置いてしまう。このように、がん患者と暮らすその家族の、看病以外の日常を描く姿勢にも製作者の誠実さがある。さらにエピソード5「誰にでも甘い慰めも必要だ」では、チャンウクとダジョンのセックスがほのめかされるのも興味深い。ここまで踏み込んだ描写をドラマに入れられるのも、韓国ドラマの強さだろう。

そんな中でも、がん患者とともに暮らす厳しさもきちんと描かれる。ダジョンからのリクエストにチャンウクが「今度作ってあげるよ」と口にした刹那、何かに気づいたようなぎこちない間が二人に生まれる。「美味しそう!」と料理に目を輝かせていたダジョンが、次の瞬間には患部の激痛でのたうち回る。私たちには“今度”がやってくるのだろうか。笑ったり怒ったり、何もない日々を積み重ねているように見えて、ふと来たるべき別れが確実に近づいていることが脳裏をかすめていく。そんなどうしようもない寂しさを一旦振り払って、チャンウクは食材を切り、フライパンを振るう。監督は「これがどれほど大変で痛い病気なのにこんなに軽く扱うのかという反対意見もあると思いますが、それは私が受け入れるべき大切な意見だと思います」と憂慮も明かしているが、こうしたシーンがきちんと盛り込まれていることが誠実だ。
『今日は少し辛いかもしれない』は、ある家族の回復の物語だ。“失いかけたことで初めて家族の大切さに目覚める”とあらすじをまとめてしまうのがもったいないほど、ドラマの1話1話を一皿のように味わってこそ良さが体に染み渡る滋味深い作品である。二人は離婚届を提出する寸前だったが、しかしがん告知を受けたダジョンは「体の具合が悪くなって最初にお父さんを思い出」し、チャンウクもまた「世話をするのが当然だと思った。でも、愛しているという答えも嘘だと思う」という複雑な感情を抱きつつ自宅へ戻る。何か大きな問題が起きたわけではなく、二人は「日常をともにするという幻想、葛藤を対話で解くという無謀、離れても幸せに暮らせるという勘違い、そして僕らは“別れ”に飛びついた」。
エピソード11「あなたはあなたが作るジュース」のタイトルは、ダジョンがチャンウクにかけた労いの言葉を冠している。消化の妨げになる野菜や果物の繊維を搾り、何度も漉してついに澄んだ色合いになったダジョンのためのジュースはたしかに、不器用ながらも料理へ向き合うチャンウクそのものだった。同時に、労力をかけ、耐える時間がなければ築くことが叶わない他者(家族もまた他者である)との相互理解の本質にも通じる。お互いがそう気づいたとき、すでに家族の時間は残り少なかった。ダジョンの死後、ようやく「心から愛していたんだ」というセリフがチャンウクの口をついて出る。
病気であれ寿命であれ、すべて生身の肉体はいずれこの世界から失われる。だが雑念も余分もないジュースのように、それまでどんな道のりを歩むかによって、短い時間でも愛は回復するのである。
参考
※1. https://www.instagram.com/p/Cc5PY7OLQnh/
※2. https://www.mk.co.kr/news/broadcasting-service/10591710
※3. アーサー・W.フランク『傷ついた物語の語り手: 身体・病い・倫理』(2002年4月1日、ゆみる出版)
・https://p.ono-oncology.jp/care/exercise_diet/03_interview/01.html
■放送・配信情報
『今日は少し辛いかもしれない』
フジテレビ系にて、毎週月曜25:55~26:55放送
FOD、WATCHAにて全話配信中
TVerにて順次配信中
出演:ハン・ソッキュ、キム・ソヒョン、チン・ホウン
原作:カン・チャンレ
演出・脚本:イ・ホジェ
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