『オク氏夫人伝』を大成功に導いたイム・ジヨン “痛快なしぶとさ”が独自の魅力に

『オク氏夫人伝』大成功に導いたイム・ジヨン

 2024年11月にJTBC系列(日本ではU-NEXT配信)でスタートして以来、好評を博していた『オク氏夫人伝 -偽りの身分 真実の人生-』が最終回で自己最高視聴率13.6%を叩き出し、フィナーレを飾った。史劇×リーガル×ラブロマンスと盛りだくさんながらすべての要素と伏線に破綻がない緻密な脚本、 圧倒的ライジングスターとなったチュ・ヨンウとの今期屈指のラブラインなど褒めるべきポイントはいくつもある中、やはり主人公を演じたイム・ジヨンが“人生キャラクター”を更新するベストアクトを見せたことが勝因だった。

 李氏朝鮮時代、最下層民である奴婢の女性クドクは、主人やその娘から苛烈な虐待を受けていた。あるとき、主人の怒りを買ったクドクは、父とともに棒で苛烈に打ちのめされた挙句、妾にされそうになるところを反撃して逃亡。途中で知り合った両班の子女、テヨンとの友情に癒されるが、盗賊に襲われテヨンは命を落としてしまう。思いもよらない出来事で彼女の遺志を継ぐことになったクドクは、オク・テヨンとして外知部(裁判や訴訟を担当する当時の弁護人)となり、活躍していく。

 昨今の韓国ドラマでは、ただ男性を待ったり、守ってもらったりするようなヒロインがほとんど描かれない。女性をチアアップするキャラが増えた現代であっても、クドク/テヨンの力強さは新鮮だった。彼女は困難な問題が起きると、情に訴えるのでも力で押すのでもなく、外知部として理性的に主張し、交渉し、時には妥協する。それはたとえ、自分をとんでもない危機に陥れた相手であっても同様だ。悪者を懲らしめることでスカッとする分かりやすい展開を取らず、法の下で罪が下されていく成熟した社会を、女性がリーダーシップを取りながら目指していこうとする知的な作品と主人公なのだ。

 だからこそ、クドク/テヨンを演じるのはとても難易度が高い。読み書きに長けた知性を持ち、度胸もあるクドクは、品格と人懐っこさを兼ね備えていなければならない。さらに女性ゆえに仕向けられる様々な妨害をかわし、偽りの身分を隠しながら外知部として堂々と振舞うことも必要だ。イム・ジヨンは細部にまで、そんなクドク/テヨンの要素を宿らせた。もちろん、思い人のソンイとのシーンは愛らしく可憐だが、対立する相手に対峙してピクリとも動かさない眉や、感情を消した眼差しの迫力が素晴らしい。特に、イム・ジヨン特有の中低音で幅のある発声が、可憐さとしぶとさというクドク/テヨンのチャームポイントを見事に表現した。

 とはいえ、ここに至るまでのイム・ジヨンのキャリアは、順調だったとは言い難いかもしれない。彼女のデビュー作となったのが、2011年の映画『情愛中毒』だった。ベトナム戦争のさなか、従軍でトラウマを負った教育隊長ジンピョンは、部下の妻ガフンと肉体関係になる。ガフンは華僑として韓国の良家で女中をしていたが、レイプされたのち愛のない結婚をしたのが今の夫だった。朝鮮戦争休戦以降は特に韓国社会で肩身の狭い思いをしていた華僑であり、痛ましいバックグラウンドを持つガフンの儚さを、イム・ジヨンは新人にもかかわらず上手く体現していた。しかし、巷ではその演技力が批判された。のちに自らも俳優初期を「なぜ私は生まれ持ったものが何もないのだろうと悩んだ」と振り返っている(※)。

 『情愛中毒』ではラスト、駆け落ちをほのめかすジンピョンに向けて、「すべてを捨ててもいいほどあなたを愛していない」と言い切る強さには、すでにクドク/テヨンの強さの片鱗が見えていた。

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