『おつかれさま』がフォーカスする“人の温かさ” 母娘3代が紡ぐ珠玉の台詞は人生の応援歌

エスンら家族は次男の死に全員が責任を感じて煩悶する。エスンは、自分が防波堤に子供を連れて行ったことに、グァンシクは、台風除けの防護壁を作りに行ったことに、クムミョンは、台風の日に自転車に乗ったことに、長男は、次男を1人家に残したことに。「もしも、自分があの時……」という痛苦を見せる家族たちに涙が止まらない。中でもグァンシクが、人生の終盤でも自分の行動に後悔している言葉に胸が締め付けられる。
絶望の淵に立つエスンとグァンシクだが、生きる気力をなくしたエスンらを島の人々が温かく支える。気力のないエスンらのもとに、たくさんの食べ物を多くの人が届けてくれる優しさと人情に感涙してしまう。意地悪な老人夫婦に見えた姿は、伏線回収により、お米をそっと米びつに入れる優しい天女と、蛸を分け与えてくれる仙人夫婦に見えて、脚本と演出の仕掛けに胸が熱くなる。
本作は、フラッシュフォワードとフラッシュバックが多用されており、エスンの「若い頃」の人生と「今」の人生が並走して行き来する。IUとムン・ソリを通したエスンの姿は、「娘」であり、「孫」であり、同時に「母」であるのだ。母エスンは、自分の母グァンネがエスンに夢を託したように、娘クムミョンに夢を託している。親から子へと繋ぐのは、螺旋を描いて受け継いでいくDNAだけでなく、「人生への夢」というバトンも繋いでいるのだ。グァンネは、聡明なエスンがその才を活かせることを夢み、エスンは自分が果たせなかった大学進学をクムミョンに託す。そして、クムミョンが留学を前に、金銭を理由に辞退することを知り、娘のために家を売る決意をする。ここぞというときに出てくるグァンネの姿が泣かせてくる。娘を案じ、常に見守っているのだろう、家を掃除したり、引っ越しの皿を包んだりと、母グァンネの娘への深い愛が胸にしみわたる。
本作は、全編を通じて、脚本家イム・サンチュンによる珠玉の台詞のオンパレードだ。エスンの娘クムミョンが、替え玉受験に巻き込まれそうになったときに助けてくれた家政婦(ナム・ミジョン)が放つ言葉も光輝いていた。「娘が全部見てるよ」「徳を積んで生きていきな、親の徳も罪も子に引き継がれるから」と悪事を働いた相手に告げた言葉は、この家政婦の正体の伏線回収とともに驚きと、爽快さと心地良さ、そして優しい柔らかなものを運んできた。過去のエスンが放った愛の行為は、「助け合う方がいい」と告げたエスンの言葉と共に巡っていたのだ。
人が生きていく中で体験する悲喜こもごもを、四季とともに描く一代記だが、その中で、特にフォーカスされているのは、人の温かさだ。作品内では、辛いことや、人間の持つ冷酷さや、身勝手さも描かれるが、その一方で物語全体を覆う空気は、温かく優しく、ノスタルジックな人が持つ人情だ。ここからエスンの娘クムミョンの恋愛も始まっていくのだろう。人生の最期の章で、人生を振り返るエスンとともに、人生が持つ様々な顔を最後までともに楽しんでノスタルジックな気持ちを共感していきたい。
参照
https://www.netflix.com/tudum/top10/tv-non-english
■配信情報
『おつかれさま』
Netflixにて独占配信中
出演:IU、パク・ボゴム、ムン・ソリ、パク・ヘジュン
演出:キム・ウォンソク
脚本:イム・サンチュン
























