魚豊が語る、創作の原点と『チ。』アニメ化への思い 「音楽で作品の成功率は90%上がる」

人生で一番好きな映画は『第9地区』

――実際に放送をご覧になって、漫画とアニメの違いについてはどう感じましたか?
魚豊:音楽と声はアニメならではの要素で、漫画にはない部分です。だからこそ、感情の表現方法が全然違うなと実感しました。また、色や動きも漫画よりも自由で、原作を膨らませて動きのある表現がされていたのがとてもよかったなと。
――今後の作品制作において、今回のアニメ化から刺激を受けた部分はありますか?
魚豊:やはり、アクションは動きがあればあるほど最高だなと感じました。僕はマーベルが大好きなので、いつかはアクションも描いてみたいなと思っています。

――マーベル好きなのが意外でした。学生時代に影響を受けた映画があれば教えてください。
魚豊:人生で一番好きな映画は中学生の時に観た『第9地区』です。あとはセリフの理屈っぽさという観点ではクエンティン・タランティーノの映画も大好きです。
――作り手側に興味を持つきっかけはあったのでしょうか?
魚豊:なんだろう……絵を描くことが好きだった事と、自分の好きなものが売れてるものであったから、市場に信頼を持てたというのもありますね。『カイジ』も『闇金ウシジマくん』も『寄生獣』も大ヒット作品ですし。自分の好みの作品は売れてるので、売れなかったら自分のせいというのは強いです。あとはもう、ガチャガチャでグルグルしてて、音がデカくてとにかく混乱するけど、めっちゃポップみたいな、パチンコみたいな漫画を描くことが僕の目標でもあるんですよね。
――実際にパチンコはやられるんですか?
魚豊:パチンコは1回しかやったことがないのですが、音が鳴って、光って、弾が飛び交うパチンコ的芸術っていいなと。けど、熱いパチンコじゃなくて、冷たい、冷徹なアングラパチンコのような漫画を描けたら僕の勝ちです。そんなパチンコって存在するのか……?
――そんな魚豊さんが今最も関心を持っているトピックは何ですか?
魚豊:やはりAIですね。
――漫画家をはじめとしたクリエイターの中には、批判的な意見を持つ方も多いのではないでしょうか。
魚豊:良い使い方もあれば悪い使い方もあるとは思いますが、今までにない表現が出てきていることは、自分が生きる10年後が楽しみになる理由になるのだと信じています。
――作品制作でAIを使うことはありますか?
魚豊:現時点では使っていませんが、次回作は何かしらぜひ活用しようと思っています。漫画をAIを取り入れた想像力で描く事ができる第一世代に選ばれたことが嬉しいなと思っています。
――魚豊さんは、エンタメ界のこれからを担う若手クリエイターの一人です。自分の作品を通じて、読者に伝えたいことはありますか?
魚豊:「他人に媚びるな」ということですね。好きなことがあるなら、誰に何と言われようとやり続けるべきです。イマヌエル・カントが提唱したように、個別の判断が普遍的な判断につながるという回路は非常に重要だと思っています。自分が良いと思うことを、他の人も同じように思ってくれるという前提は大切です。それを達成するためには何が必要なのか。自分の感覚と他者の感覚を融合/交通させるにはどうすればいいのか。そのための努力が仕事であり、これはすべてのクリエイターにとって重要なことです。『チ。』は、その気持ちも伝えたくて描いていたので、作品を通じてその感覚を感じ取ってもらえたら嬉しいですね。
■放送情報
TVアニメ『チ。―地球の運動について―』
NHK総合にて、毎週土曜23:45~放送
Netflix、ABEMAにて、各話放送終了後配信
キャスト:坂本真綾(ラファウ役)、津田健次郎(ノヴァク役)、速水奨(フベルト役)、小西克幸(オクジー役)、中村悠一(バデーニ役)、仁見紗綾(ヨレンタ役)
原作:魚豊『チ。 -地球の運動について-』(小学館『ビッグスピリッツコミックス』刊)
監督:清水健一
シリーズ構成:入江信吾
キャラクターデザイン:筱雅律
音楽:牛尾憲輔
音響監督:小泉紀介
オープニング曲・主題歌:サカナクション「怪獣」
エンディング曲:ヨルシカ「アポリア」
アニメーション制作:マッドハウス
©魚豊/小学館/チ。 ―地球の運動について—製作委員会
公式サイト:anime-chi.jp
公式X(旧Twitter):@chikyu_chi






















