ゾーイ・サルダナからショーン・ベイカーまで 第97回アカデミー賞で印象的だったスピーチ

ゾーイ・サルダナの叫びと歴史的快挙

ここからは印象的だった受賞スピーチを振り返りたい。まずは『エミリア・ペレス』で助演女優賞を受賞したゾーイ・サルダナ。これまでの前哨戦でも受賞を逃してこなかったため、確実視されていたオスカー獲得ではあったものの、初ノミネート初受賞への感動は冷めない。何より、彼女の受賞は初のドミニカ系アメリカ人のオスカー受賞を意味する。ステージに上がると「マミー!」と泣き顔で叫んで自身の母を探すサルダナ。授賞式には家族が来ていると触れた後、以下のようにスピーチを進めた。
「リタ(彼女の役名)のような女性の静かな英雄的行為と力を認めてくださり、ありがとうございます。力強い女性といえば、ノミニーのみなさん。みなさんが私に与えてくれた愛とコミュニティは真の贈り物です。私も次の世代に渡していくようにします。そしてお母さん、お父さん、姉妹のみんな、私が人生で成し遂げた勇敢で大胆で善良な行いは全てみんなのおかげです。私の祖母は1961年にこの国にやってきました。私は夢と祖元と勤勉な手を持つ移民の両親を持つ、誇り高い子供であり、アカデミー賞を受賞した初のドミニカ系アメリカ人です」
同じく歴史上初の受賞といえば、衣装デザイン賞。オスカーを手にした『ウィキッド ふたりの魔女』のポール・タゼウェルは2021年公開の『ウエスト・サイド・ストーリー』に続いて2度目のノミネーション、今回が初受賞となった。彼が「これは驚くべきことです。この非常に重要な栄誉を与えてくださったアカデミーに感謝します。私は衣装デザイン賞を受賞した最初の黒人です」と言った瞬間、『ウィキッド』主演のエリヴォがいち早く立ち上がり、拍手。会場が続き、スタンディングオーベーションが巻き起こった。
エイドリアン・ブロディ、ショーン・ベイカーによる力強いスピーチ

また、『ブルータリスト』で主演男優賞を受賞したエイドリアン・ブロディは受賞者の中でも最も長いスピーチを披露した。受賞に対する感謝を伝えた後、俳優業に関してスピーチの中で以下のように触れている。
「演技はとてもはかない職業で、とても魅力的に見え、ある瞬間は確かにそうに見えますが、ここに戻ってくる特権を得て私が得た唯一のことは、ある程度の視点を持つことです。キャリアのどこにいても、何を成し遂げても、すべては消え去る可能性があり、今夜が特別な夜であるのもそれ故です。自分の愛する仕事を続けられていることに感謝します。(中略)このような賞を受賞することは、“目的地”を意味します。映画の中で私の演じるキャラクターも言及していることですが、私にとってはキャリアの頂点を超えた再出発のチャンスです」
同賞はブロディにとって2度目の受賞となる。1度目は23年前の『戦場のピアニスト』だ。その時の役と『ブルータリスト』で演じた主人公の類似性を挙げて、以下のような力強いコメントも残した。
「私は再び、戦争、組織的抑圧、反ユダヤ主義、人種差別、他者化によるトラウマや影響を訴えるためにここに来ました。私はより健全で、より幸せで、より包括的な世界を祈っています。過去が私たちに教えてくれるとすれば、それは憎しみを野放しにしてはならないという戒めだと信じています」
最後に最多受賞の『ANORA アノーラ』のベイカー監督のスピーチを紹介したい。一夜にして4つのオスカー像を手にしたベイカーは監督賞を受賞した際、プレゼンターのクエンティン・タランティーノに対し、「あなたがマイキー(・マディソン)を『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』に起用していなかったら、『ANORA アノーラ』はなかった」と感謝を述べた。そして「自分にとって最も情熱のあるものについて語らせて」とオスカー像をステージに置く。
「今夜、私たちがここに集まってこの放送を見ているのは、映画が好きだからです。私たちが映画に恋したのは、どこでしたか? 映画館です。客と一緒に映画館で映画を観るのは“体験”です。一緒に笑い、一緒に泣き、一緒に叫び、一緒に喧嘩することだってあるし、もしかしたら打ちひしがれながら沈黙の中で一緒に座っているかもしれません。そして、世界が非常に分断されているように感じるこの時代に、このような体験はこれまで以上に重要です」

ベイカーは続けて、パンデミックで迎えた映画館維持の危機についてコメントする。
「映画館、特に個人経営の映画館は苦境に立たされており、彼らを支援するのは私たちの責任です。パンデミックの間、米国では約1000のスクリーンが失われました。そして、定期的に失われ続けています。この傾向を逆転させなければ、私たちの文化の重要な部分を失うことになります」
「これが私の戦いの叫びです! 映画製作者よ、大画面で映画を作り続けてください。私もそうします」と強く訴えるベイカーは最後、映画配給会社に対しストリーミングよりも劇場公開を優先するよう呼びかけた。
「配給会社のみなさん、何よりもまず映画の劇場公開に注力してください」





















