『べらぼう』一瞬の恋の思い出が一生心を温めてくれる 森下佳子脚本の切なすぎる愛の形

誰にもさとられないように、本に挟んだ文で想いを交わしていた蔦重と瀬川が、その物語の感想を話す振りをして一緒になる未来を諦めたと告げるシーンには、思わず胸が詰まった。すべてを捨ててでも2人で生きていきたいと願ってくれたこと。そんなべらぼうな提案を、蔦重がしてくれたことそのものが一生の思い出になった。まるで、とっておきのラブストーリーを読んで胸がいっぱいになったあとに現実に戻るように。彼女は花魁が幸せになる道を見せる身として、生きていく決意をした。そして、蔦重もそんな瀬川を引き止めることはなかった。

そんな来世で結ばれることを願わずにはいられない2人を描かせたら、脚本家・森下佳子の右に出る者はいないのではないだろうかと思わせられた。想いを寄せ合う2人が添い遂げられない悲しみに打ちひしがれながらも、同時にそれほどの恋をすることができたという幸せが私たちの胸を響かせるのかもしれない。一瞬の恋の思い出が、一生心を温めてくれることもある。身を切られる思いで諦めた恋が、人を強くしてくれる。そんなことを教わるようだ。

1400両を用意した鳥山検校(市原隼人)に身請けされていく瀬川。ひとりの女性としての幸せよりも、吉原という場所の価値、多くの遊女たちの希望、そして蔦重の未来を守ろうとした覚悟の表情に見えた。どこまでいっても瀬川に助けられてばかりの蔦重。彼女の決断に報いる行動とは何だろうか。失った恋が蔦重をどう強くするのか、痛む胸をさすりながら見届けたい。
■放送情報
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』
総合:毎週日曜20:00〜放送/翌週土曜13:05〜再放送
BS:毎週日曜18:00〜放送
BSP4K:毎週日曜12:15〜放送/毎週日曜18:00〜再放送
出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、宮沢氷魚、片岡愛之助
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志
写真提供=NHK






















