横浜流星は殴られ役もよく似合う 『べらぼう』蔦重に活かされた極真空手の生き様

『べらぼう』横浜流星は殴られ役もよく似合う

 また、忘八たちに殴られ蹴られ、三日三晩大桶に閉じ込められてもこたえない。普通なら泣いて許しを請い、そのまま負け犬として生きることになるシーンだ。だが彼は、桶の中でただ考え続ける。再び吉原に客を呼ぶにはどうすればいいかを。ひたすら考え続けていたので、やっと桶を外してもらったときも、一休さんのようなフォームで沈思黙考したままだった。

 この「物語序盤で主人公がお仕置き的に拘束されることにより、なにやら悟りを開く」というシーンは、古典的な名作でよく見るシーンである。有名なところでは、沢庵和尚によって何日も杉の木に吊るされる、若き日の宮本武蔵。あるいは、喧嘩沙汰を師匠にとがめられ、一晩中冷たい池に浸かっていた姿三四郎。武蔵も三四郎もその経験を経て、武人として成長してゆく。

 蔦重は武人ではないが、“戦う人”ではある。吉原を再び活性化させるために戦い、くせ者揃いの地本問屋たちと戦い、やがて来る「寛政の改革」の折には、国家権力とも戦う。物理で戦うか、アイデアで戦うかだけの違いである。“戦う人”としての蔦屋重三郎役に、横浜流星がキャスティングされたのは、至極当然のことだったのだ。

 目下の戦う相手は、笑顔の腹黒地本問屋・鶴屋喜右衛門(風間俊介)。そして、いずれ強大な敵となる寛政の改革の張本人・松平定信(田安賢丸/寺田心)。この、作中二大“赤子面”と、蔦重はどのように戦っていくのか。まだ3月だというのに、これからの“戦い”が楽しみで仕方がない。

参考
※1. ピンと来ない方は、YouTubeで「佐山聡 合宿」で検索してみてほしい。格闘技ファンの間では有名な映像が、ヒットするはずだ。極真空手ではないが、当時の格闘技道場の雰囲気を感じてもらえることだろう。
※2. その道場の選手がまともに頭部を蹴られ、完全にダウンしながらも相手の裾を掴み、般若のような顔で立ち上がろうともがく光景を見たことがある。その道場のまた別の選手が、体重無差別の大会で軽量級の体格ながら重量級の選手たちと真っ向から打ち合って、ボロボロになりながらも勝ち上がる姿を見たことがある。泥臭く不器用だが、情念のようなものを感じる選手が揃った道場だった。

■放送情報
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』
総合:毎週日曜20:00〜放送/翌週土曜13:05〜再放送
BS:毎週日曜18:00〜放送
BSP4K:毎週日曜12:15〜放送/毎週日曜18:00〜再放送
出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、宮沢氷魚、片岡愛之助
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志
写真提供=NHK

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