ロバート・デ・ニーロが元大統領役で熱演 『ゼロデイ』が直面することになった“大きな誤算”

誰もが認める名優ロバート・デ・ニーロが、ドラマ初主演を務めるということで話題となったリミテッドシリーズ『ゼロデイ』(全6話)が、Netflixからリリースされた。デ・ニーロが演じるのは、退任して静かに余生を過ごしながら回顧録を執筆している、元大統領。そんな悠々自適の人物が、インフラをターゲットととした大規模サイバーテロの犯人を捜査するため、アメリカの命運を握る現場に復帰するといった内容だ。
そんな本シリーズ『ゼロデイ』は、政治的なメッセージを発信している俳優でもあるデ・ニーロが初主演作に選んだように、現在のアメリカ社会の政治的な問題を見事に浮き彫りにした作品となっている。ここでは、そんな本シリーズの内容を紐解きながら、アメリカ社会の状況を考えていくともに、本シリーズが直面することとなった“大きな誤算”とは何だったのかを、明らかにしていきたい。
タイトルの「ゼロデイ」とは、「ゼロデイ攻撃」と呼ばれるサイバー犯罪のこと。ネットワークを介してコンピューターのシステムにおける「セキュリティホール(脆弱性)」を利用し、修正プログラムが提供される前に、国家や企業、社会を支えるインフラやネットワークに侵入して打撃を与えるというものだ。本シリーズでは、この攻撃により重大な事態が引き起こされ、大勢の人間の命が犠牲となる。
デ・ニーロ演じるジョージ・マレン元大統領は、現大統領(アンジェラ・バセット)から事態を調査する「ゼロデイ委員会」の責任者に任命され、国内が大混乱に陥るなか、持ち前のリーダーシップを発揮して、原因究明と犯人の捜索にあたることとなる。マレンの頼もしいスピーチは、国民や調査チームの職員たちに、安心感と希望を与えることとなる。それはデ・ニーロの演技の説得力が光る場面でもある。
しかしサイバー攻撃は止まず、大手銀行のシステムがストップする事態に及ぶと、電子マネーに頼っている市民は買い物にも困る状態に陥り、人々の不安は一気に膨れ上がる。そこで巻き起こるのが政府への不満の表出と、陰謀論の醸成だ。動画インフルエンサーのエヴァン・グリーン(ダン・スティーヴンス)は不確かな情報で市民の怒りを煽り、国内は混乱の渦に巻き込まれるのだった。
本シリーズで重要なのが、この陰謀論との闘いだ。国民の反応や行動が正しい情報に基づいているのなら、事態は自ずと解決へと推移していくはずなのだが、デマ情報が流布されることで不要な分断や騒動が生まれ、それ自体が脅威となってしまう。このようなデマは日本でも、災害時に混乱を生んだり、倫理に反した選挙活動などに利用されてしまっているので、多くの人が理解しやすいだろう。
こういった混乱に対して、マレンは強権を振るうことで事態を収拾し、事件の犯人を突き止めようとするのだが、彼自身もまた倫理的な枠組みから逸脱し、民主主義国家にあるまじき捜査方法に及んでしまう。『ダークナイト』(2008年)でも同様に、ヒーローであるはずのバットマンが正義のために不正義に陥ってしまう描写があったように、マレンはジレンマに苦しむこととなるのだ。
マレンに道を誤らせる要因となったのは、一部の企業やメディア、インフルエンサーなどの倫理観の欠如である。自身の影響力を高めるため、不正確な情報をばら撒いて責任を取らない煽動者であっても、リテラシーが欠如した人々は極度に単純化され感情を煽る「ポスト・トゥルース」に惹かれ、熱狂的に支持してしまう。こういった状況を利用しながら「表現の自由」を悪用し、法律の盲点を突いて迷惑行為を続けていく姿勢に対して、従来の民主主義的な取り組みでは対応できなくなっているというのが、大きな社会問題なのである。
この事態に拍車をかけるのが、本シリーズの設定上の兵器「プロテウス」の存在だ。これは、遠隔から秘密裏に対象者の脳にダメージを与え、証拠を残さずに記憶障害や幻覚を引き起こすことができるといった、凶悪な装置なのだという。興味深いのは、この兵器をマレンが恐れること自体が、実際に広がったデマである「5Gでウィルスが拡散された」、「災害は人工地震によるもの」などの陰謀論を信じることと、きわめて近い状況にあるという点である。
陰謀論と闘う者が、陰謀論的な疑心暗鬼のなかに放り込まれるという構図は、「自分は安易なデマに左右されないリテラシーを持っている」と信じているわれわれ視聴者にも、さまざまな不安を抱かせる。何を信じればいいのか分からなくなってきている暗中模索の時代に、われわれも一つひとつの状況に対処していかなければならないのである。
























