我々は“事実”の映画化とどう向き合うべきか? 『TATAMI』が描く中東情勢の史実

2019年、東京で開催された世界柔道選手権。このときにイランの選手が自国の協会から負けるよう強要されるという出来事が起こる。家族の安全を盾に取って脅すやり口など、大まかな経緯は、『TATAMI』と共通している。
本作は事実の物語を基にしたフィクションだ。史実をベースにしながら、そこに新しい解釈や別の視点を導入するという制作手法は、この10年くらいの映画ではよく見かけるものになった。『TATAMI』も実話を基に、細部や舞台に脚色を加えたフィクションである。そして、大きな部分を変更している。東京大会で負けるよう圧力をかけられた男性のイラン人選手。それをベースにした本作は、イラン政府の抑圧をはねのけた女性アスリートの話になっている。事実の映画化というニュアンスは、少し異なる「事実」を基にした映画でも、「Based on」と表記するケースと、「Inspired by」と表記するケースがある。本作も事実がアイデアの基になった「インスパイア系」くらいの影響と考えるべきだろう。

とはいえ、本作の撮影はすべて極秘裏に行われ、映画に参加したイラン出身者は全員が亡命しているという。スタッフたちが映画制作において直面した現実は、レイラというキャラクターが置かれた状況と重なっていたのだ。

チームと共にバスで移動するレイラ。冒頭とは違う箇所でも、チームでのバス移動場面が登場する。2度バスが登場する。少なからず意味を持つ場面だ。アメリカの青春映画『卒業』(1967年)が浮かんだ。サイモン&ガーファンクルの「サウンド・オブ・サイレンス」が流れるラストシーンは、映画史的な名シーンである。バスに乗って駆け落ちをする2人のその後の未来は、映画には具体的に描かれない。ただ、ダスティン・ホフマンとキャサリン・ロスの表情がそれを暗示する。『TATAMI』には、この演出を意図してなぞったのであろうバスの場面が描かれる。やはり、主人公の表情を通して、その先の未来を予感させる。ぜひバスのシーンを心に留めて映画を観てほしい。
■公開情報
『TATAMI』
2月28日(金)新宿ピカデリーほかにて全国順次公開
出演:アリエンヌ・マンディ、ザーラ・アミール、ジェイミー・レイ・ニューマン
監督:ガイ・ナッティヴ、ザーラ・アミール
脚本:ガイ・ナッティヴ、エルハム・エルファニ
配給:ミモザフィルムズ
2023年/アメリカ、ジョージア/英語、ペルシア語/103分/モノクロ/1.78:1/5.1ch/原題:TATAMI/字幕:間渕康子
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公式サイト:https://mimosafilms.com/tatami/






















