MAPPA副社長・長谷川博哉に聞く、アニメ制作の最前線 “若手にもチャンスが多い会社”

MAPPA・長谷川博哉に聞く、アニメ制作の最前線

企画と監督の相性とは

(左から)『らんま1/2』©高橋留美子・小学館/「らんま1/2」製作委員会、『全修。』©全修。/MAPPA

――企画と監督の相性というのは、どのように見極めているのですか?

長谷川:お客さんが求めているであろうことにはまりそうな人を身の回りから探したり、信頼できる方々から意見を聞いてみたりしながら誰が上手く合いそうか、ということを考えます。

――『ヴィンランド・サガ』の籔田監督はCG出身ですが、作画アニメの監督に起用した経緯はなんだったんですか?

長谷川:当時、WIT STUDIOの中武(哲也)さんから籔田さんの名前が出たと記憶しています。籔田さんは、それまで様々な作品でCGディレクターを担当していましたが、演出もいくつか担当した作品があり、知人がその作品の監督だったこともあって彼の仕事に対しての向き合い方などを事前にヒアリングしたりもしました。『ヴィンランド・サガ』は漠然とですが、映画っぽくというか、広い画作りができる人がいいなと思っていて。籔田さんと会った時にそのことを伝えると、こちらの意図するところを理解して貰えている印象を強くて受けたんですよね。それでいけるんじゃないかとなりました。

――『忘却バッテリー』では『チェンソーマン』のチーフ演出を務めた中園真登監督を起用していました。

長谷川:中園監督の場合は、僕が『忘却バッテリー』に参加する前から監督としてすでに脚本やロケハンなどの制作に入られていました。この時も、中園さんと過去に仕事をしたことがある方々が僕の周りにもいたので、その人たちに聞いて、どういう映像作りをするタイプで、どういうことを大事にする人なのかを聞いていました。なるべく客観的に、総合的に情報を集めて、「どういうやり方にするのか」「作品とその監督にとって何がベストなのか」を考えるようにはしています。

『忘却バッテリー』©みかわ絵子/集英社・KADOKAWA・MAPPA

――2024年の『らんま1/2』では、ベテランの宇田鋼之介監督を起用されていましたね。

長谷川:僕ではなく大塚さんの起用ですね。宇田さんとMAPPAの付き合いは長いですし、マンガ原作のものをいくつも上手く映像化されている実績があるというのが大きな理由です。『らんま1/2』はコアなファンがすごく多い、プレッシャーのかかるタイトルだったので、若手で新しいことにチャレンジするか、宇田さんのように経験豊富な監督の下に新しいスタッフを入れてまとめてもらうかで、後者を選択したという感じですね。

他社を経験したからこそ還元できるものもある

――人材育成について、取り組まれていることはありますか?

長谷川:作画演出部では積極的に新卒を採用して、適性を見ながら仕事の幅を広げていき、なるべく早くチャンスを与えていくことを来年度からやっていこうと計画しています。あと、1人の人間が複数人に対し平等に技術伝達できる教育の仕方を考えていきたくて、今いろいろ検討を進めているところです。

――アニメの制作現場が抱える課題はなんでしょうか? また、克服のために必要だと考えていることがあれば教えていただきたいです。

長谷川:課題は山ほどあるんですが、MAPPAに限らず、ここ数年だと僕らが入った時とは違い、今はカジュアルにアニメーションに触れる人が増えたので、いざアニメ制作に関わったとき、イメージしていた世界と違う、みたいなギャップが生まれるケースが多いことです。かといって、アニメーションは大変だと積極的にアピールしていてもしょうがないし、そのギャップをどう埋めればいいんだろうと考えています。働き方だと、制作の現場でも仕事とプライベートを切り分けて、バランスを取りたい人が以前と比べて多くなっている印象です。時代に合わせて、そのバランスが取れない働き方は個人任せではなく、企業としてもさせない姿勢というのが大事なんですよね。

『らんま1/2』のぬいぐるみたち

――長谷川さんはGONZO出身で、マッドハウスの福士(裕一郎)さんやCloverworksの福島(祐一)さんといった、現在活躍されている他社のプロデューサーとも仲が良いですよね。お互いに刺激し合っているのでしょうか?

長谷川:そうですね。そのお2人とはご飯をよく食べに行ったりしています。出身とはいえ、僕らが一緒に在籍していたのは2年くらいです。その後、僕はProduction I.G、福島さんはA-1 Pictures、福士さんはマッドハウスへそれぞれ移籍しました。ただ僕らだけではなく、制作としていまも活躍されているたくさんの方々が当時のGONZOにはいらっしゃいました。全員で集まることは少ないですが、それぞれに連絡を取り合っています。僕らの場合は、もともと同じところからスタートしていて、みんなアニメーション制作を辞めてないから、自然と他社の人間ともコミュニケーションが取りやすい環境にはなっています。MAPPAでもまだ若い制作たちはそういう他社さんとのつながりを構築している最中ですね。

――長谷川さんとしては、もっと他社のことも吸収してほしいと。

長谷川:会社によって文化も違いますし、僕はいままでいくつかの会社を渡り歩いてきましたが、それぞれの会社のいいところってやっぱりあると思っているので。それは必ず他の会社でも活かせると思います。

――これからアニメ業界を目指す人に伝えておきたいことはありますか?

長谷川:僕らが作っている商業アニメは、専門学校や大学などでも学ぶ機会はあるかもしれませんが、この規模の制作を実習で習得できないでしょうから、やっぱり会社に入って初めてのトライになるわけです。初めてでいきなり上手くいくことなんてほとんどないので、一度の失敗で自分には向いてないと思わなくていいです。最初から上手くいく人の方が圧倒的に少ないので、自分が成長することを期待して、少し気長に頑張ってみるのがいいんじゃないかなって思います。

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