『べらぼう』横浜流星の眼差しの美しさは別格 森下佳子脚本は名作時代劇ドラマをつなぐ

第1回冒頭は、蔦重が、大火から人々を逃がすために櫓の上で半鐘を鳴らし続けるところから始まった。さらに困っている幼なじみ・花の井(小芝風花)を見つけるとすぐさま降りていき、彼女や禿たち(金子莉彩、吉田帆乃華)、朝顔(愛希れいか)、少年(渡邊斗翔)とともに火の中を駆け抜ける。それは被害が甚大だった「明和の大火」そのものを示すだけでなく、至る所で「欲の業火」渦巻くこの世界において、唯一の道しるべとなり得る蔦重の優しさを示すものであり、本作は彼が仲間とともに時代を駆け抜けていく物語であると伝えているようにも思う。

第4回で明らかになった、蔦重にとっては気のいい本屋商売の師匠・鱗形屋孫兵衛(片岡愛之助)が胸の内に抱く「暗い情念」のように。あるいは“忘八”こと女郎屋の主人たちや田沼意次(渡辺謙)の意外な一面のように。本作の登場人物たちは、様々な「顔」を見せる。そんな中、真っ直ぐで一本気な横浜流星/蔦重の眼差しの美しさは格別である。だから、絶対的な主人公・蔦屋重三郎を応援せずにはいられない。
また、本作は回想を例外として、主人公の幼少期を描かずに始まった。その代わりのように、常に蔦重青年の傍に佇んでいるのが、蔦重の幼名である「唐丸」を名乗ることになった、彼を慕う少年である。火事の日に行き場がないところを蔦重に助けられて以来彼に面倒を見てもらっている唐丸の姿は、はっきりとは描かれていないが、行き場がなく駿河屋市右衛門(高橋克実)に拾われた蔦重のかつての姿に似ているのではないか。

つまり視聴者は、蔦重と唐丸を通して一人の人間の青年期と少年期を同時に目の当たりにしていると捉えることもできるのだ。そして第5回の副題「蔦に唐丸因果の蔓」とはいかに。また、蔦重とともに朝顔たち女郎の無惨な死を目の当たりにしたり、女郎屋の仕組みを知って「地獄のようだね」と呟いたりする彼の見るもの、聞くものはやはりどうにも地獄めぐりの様相を呈している。絵師としての類まれな才能の持ち主であることが明らかになった唐丸の未来が気になって仕方がないところだが、今宵はまず、彼の過去に目を向けることとしよう。それはきっと蔦重の辿ってきた道を想像することに他ならないのだから。
■放送情報
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』
総合:毎週日曜20:00〜放送/翌週土曜13:05〜再放送
BS:毎週日曜18:00〜放送
BSP4K:毎週日曜12:15〜放送/毎週日曜18:00〜再放送
出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、宮沢氷魚、片岡愛之助
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志
写真提供=NHK





















