横浜流星の悔し涙に詰まった『べらぼう』の醍醐味 “工夫”のぶつかり合いがもたらすもの

蔦重(横浜流星)が仕掛けた、遊女たちを花に見立てた新たな入銀本『一目千本 華すまひ』によって、徐々に賑いを取り戻しつつあった吉原。すると、今度は遊女たちの錦絵を出そうという話が持ち上がる。しかし、単色刷りの『一目千本 華すまひ』に比べて、多色刷りの錦絵を出すとかなりのコスト高。はてさてどうしたものか。
これまでの流れであれば、遊女たちから入銀させればいい……となるが、それでは彼女たちの暮らしは一向に楽にはならない。蔦重がしたいのは、そんな商売ではない。ならば、やはり工夫するしかないのだ。従来のやり方にとらわれない、新しいやり方を。
そこで蔦重がひらめいたのは、呉服屋が売り出したい着物を身にまとった遊女を描き、ファッションカタログのような錦絵を売り出してはどうかというもの。現代風に言えば、呉服屋はスポンサー、遊女はインフルエンサーというわけだ。
とはいえ、現代でもインフルエンサーの知名度が物を言うのと同じく、当時の吉原では一気に流行を生み出せるほどの名の知れた遊女がおらず、蔦重の提案はなかなか通らない。いくつもの呉服屋の主人に頼むも煮えきらない返事ばかり。そんなとき思わぬところから強力な助け舟がやってくる……。

NHK大河ドラマ『べらぼう ~蔦重栄華乃夢噺~』第4回のタイトルは「『雛形若菜』の甘い罠」。そのタイトルに不穏な空気が漂いながらも、蔦重の奮闘は続く。助け舟となったのは、版元・西村屋与八(西村まさ彦)だった。西村屋がバックに付いた話ならと進まなかった話が着々と決まっていく。さらに、西村屋は言うのだ、これを機に蔦重も版元になってみてはどうか、と。
何者でもなかった蔦重にとって、これほどうれしい言葉はなかったはず。夢中になって取り組める仕事を見つけたという手応え。それを認めて導いてくれる人たちがいる喜び。平賀源内から「耕書堂」という号までもらい受ける。

「おめぇさんはさ、これから版元として書をもって世を耕し、この日の本をもっともっと豊かな国にすんだよ」
そう背中を押されたときの希望に満ちた蔦重の瞳の輝きといったら、こちらまで胸をしゃんと張りたくなるほどだった。しかし、やっとのことでこぎつけた錦絵を披露する場で、タイトルの本当の意味がわかるという残酷な展開が待っていた。
そこにやって来たのは、鱗形屋孫兵衛(片岡愛之助)と鶴屋喜右衛門(風間俊介)。江戸市中で本を売るには、彼らが所属する仲間内に入っていないと無理だという。であれば、「今から仲間に入れてもらえないか」という蔦重の申し出も冷たく突き放す。

版元を西村屋だけの名義に、つまり蔦重だけが手を引けば本は販売できる。そんな理不尽な状況に追い込まれた蔦重に、見通しが甘かったと手をついて謝る西村屋だったが、実は端から鱗形屋と仕組んでいた側だというから、その狡猾さにあっけにとられてしまう。
蔦重の視点で見ていると、なんて卑怯な奴らだと憤慨したくなる。だが、ふと冷静になると、これも彼らなりの「工夫」なのかもしれないとも思えてきた。自分たちが今までやってきた方法、作り上げてきたシステムを一気にぶち壊す新参者が出てきた。しかも、その人には自分たちにはない天才的なセンスと凡人にはない行動力がある。そんな人物に脅威を感じて、まずは排除したいと思うのは自然なことではないだろうか。





















