『べらぼう』平賀源内を通して知る“広告”の真髄 “ありのまま”だからこそ伝わるもの

『べらぼう』平賀源内を通して知る広告の真髄

 NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』が綴るのは、「江戸のメディア王」となる蔦屋重三郎の歩み。となれば、蔦重(横浜流星)が見出すレジェンドクリエイターたちがモデルとなったキャラクターたちが続々と登場するのも、このドラマの大きな見どころだ。

 1月12日放送の第二回「吉原細見『嗚呼御江戸』」では、さっそく江戸時代を代表するスターのひとりが登場。学者、医者、作家、発明家……と、いくつもの才能を発揮し、日本におけるコピーライターのはしりとも言われている平賀源内(安田顕)である。

 1769年、平賀源内は歯磨き粉「漱石膏」の広告を手掛けて大ヒットさせたそう。「金に困って出したから、効くかどうかはわかんないけれど、でもどうかひとつ助けると思って買ってちょうだい」現代のSNSでも話題になりそうな「ぶっちゃけ商法」がウケたというのだ。

 一般消費者はいつだって嘘が嫌いだ。誰もが聞き心地のいいセリフに惑わされて、悔しい思いをしたくないと警戒している。とはいえ、端から魅力のないものには惹かれない。大事なのは期待値だ。

 平賀源内が考えた「漱石膏」が人々の心を打ったのは、過度な期待を煽らない正直さ。そして、商品の質よりも「人助け」の喜びというベネフィット提示も忘れない。過剰な宣伝ではなく、一肌脱ぐ感覚で「いっちょ買ってやろうか」という購買動機が形成されているのだ。商品にも消費者にも偏らない絶妙なバランス感覚。それができたのは、きっとどちらの空気にも飲まれない冷静な第三者視点があったから。

 そんな江戸の市民たちから絶大な信頼を集めていた平賀源内に、吉原のガイドブックとも言える『吉原細見』の序を執筆してもらえば、人をもっと呼べるのではないかと考えた蔦重。そのアイデアを吉原細見の企画・制作・販売をしている地本問屋の鱗形屋孫兵衛(片岡愛之助)に持ちかけると、意外にも「いいぜ」と二つ返事で許可が出る。

 だが、その言葉には続きがあった。「ただし、おめぇさんが序をもらって来れたらな」と、まさかの蔦重が平賀源内を探し出し、原稿執筆の依頼をして来いというのだ。どこにいるのかもわからない、どんな顔なのかもわからない。そんなところから蔦重は平賀源内探しに奔走する。

 探し求めていた人が、実は身分を隠していた目の前の人だった……なんていうお決まりの展開も実に痛快だ。正体を知らなかったとはいえ、蔦重は偶然にも平賀源内を見つけ出し、吉原を案内することになる。

 吉原で楽しんでもらえたら、その魅力が伝わるはず。そう思っていた蔦重に、平賀源内は問う。「他の岡場所と比べて吉原のいいところはどこだ?」と。慌てて蔦重が「女が綺麗」「芸がたしか」「料理がうまい」などと並べるも、「悪かない」「ほかでも三味はできるよ」「味ひでぇよ」とバッサバッサと斬っていく。吉原というブランドを見せつけただけでは「それがどうした」といったテンションで冷ややかな視線を向ける、このブレない軸が消費者の信頼につながっているのだ。

 加えて、平賀源内は男色家ときた。しかも以前に一度、吉原細見の序を書いたこともあったが、どうも気分が乗らない内容になってしまったとも。これでは多くの人に「吉原に来てみたい」と思わせる序なんて書けない。果たしてどうしたものかと、困っていたときに助け舟を出したのが、蔦重の幼なじみでもある花魁・花の井(小芝風花)だった。

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