『MR.JIMMY ミスター・ジミー』“再現芸術”の追求が思い出させてくれる“ロック”の衝動

もちろん彼の演奏力自体は見事と言うほかなく、冒頭で演奏された「Dazed and Confused」を聴けば、誰もがロバート・プラントの歌声を脳内再生してしまうほどだ。
しかしそれよりも衣装や姿勢、体型に至るまでサウンドメイク以外の要素に異常な執着をみせる彼はもはやミュージシャン以上の何かであって、いわばLED ZEPPELINの再現を得意としたミュージシャンというよりは、ペイジの再現が自己目的化した、ある種の求道である。

だから彼はトリビュートバンドをビジネスとして運営しているときでさえ、ヒット曲を繰り返すだけのセットリストには満足しない。むしろ“知る人ぞ知る”ような曲の再現度を高めることこそ、彼にとっての必然である。彼は「ヒット曲を繰り返すだけのセットリストはごめんだ」とまで言う。
「再現」を追求しながらも「反復」を避ける。ある種の自己矛盾を孕んだ求道は、彼をさらなる高みへ追いやるだろう。自己矛盾の内包はそれ自体「ロック」らしさでもあるからだ。なぜなら「反体制」のポーズを取りながら商業的評価を目指さざるをえないのが、「プロ」のロックミュージシャンだからである(その矛盾に耐えきれずにカート・コバーンは他界した)。

自己矛盾に身を置き続けることがロックであるとするならば、「再現芸術」の追求はクラシックでありながら「ロック」であるという逆説が立ち現れる。ジミー桜井の生き様が単なる「真似事」に過ぎないと一蹴するのが憚られる、むしろ畏怖さえ抱いてしまうのは、このような「再現芸術」への問い直しをもたらしたことによるだろう。
そしてこうしている間にも、ジミー桜井は「反復なき再現」を追求し続けている。
■公開情報
『MR.JIMMY ミスター・ジミー レッド・ツェッペリンに全てを捧げた男』
新宿シネマカリテほかにて公開中
出演:ジミー桜井
製作・監督・編集:ピーター・マイケル・ダウド
撮影:アイヴァン・コヴァック&マシュー・ブルート
音楽録音&ミキシング:ジェフリー・ジュサン
再サウンド・ミキサー:フィリップ・ブラック・フォード
製作総指揮:ポーラ・ダウド
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム
2023年/アメリカ・日本/日本語・英語/114分/16:9ビスタ/5.1ch/ 英題:Mr. Jimmy/字幕監修:西江健博、横関清髙、桜井純子
©One Two Three Films
公式サイト:https://mr-jimmy-movie.com






















