染谷将太、『劇場版ドクターX』“転調”の役割を担う ラスボスとしての貫禄と説得力
年末に向かって次々と話題作が公開される中、若手からベテランまでの演技者が一堂に会した映画が封切られた。そう、『劇場版ドクターX』である。これは大人気ドラマシリーズの最終章にして、最初で最後の映画作品。主人公・大門未知子にとって、そしてこれを演じる米倉涼子にとって、まさに集大成的な作品だ。
そんなシリーズ最重要作品ともいえる本作に、染谷将太が出演している。しかもそのポジションは、主人公の前に立ちはだかる存在だ。本作における彼の功績について考えてみたい。
ドラマ『ドクターX~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日系)は、2012年に放送がスタートし、これまでに8作品が世に放たれてきた。主人公の大門未知子(米倉涼子)は超一流の腕を持つフリーランスの外科医であり、厳しい状況にあるときこそ、「私、失敗しないので」という名ゼリフを口にし、メスをふるってきた。最新作にして最終作となる『劇場版ドクターX』は、そんな彼女の“ルーツ”に迫っていく作品だ。
では、シリーズ9作目で初登場した染谷が演じているのは、いったいどのようなキャラクターなのか。彼が演じる神津比呂人は、東帝大学病院の新病院長にして天才外科医。エビデンス重視のサイコパスな性格の持ち主で、未知子とは、ある特別な関わりがある。この“特別な関わり”が本作の物語の核なので、そこまで言及するのは控えておきたい。とにかく本作における染谷の役どころは、あらゆる医師たちと対峙するボス的存在なのである。
しかも比呂人は双子で、多可人という弟がいる。彼は車椅子での生活を強いられている、医療機器メーカーのCEOだ。染谷はひとりで、この兄弟を演じ分けている。
長きにわたって続いてきたシリーズものの最終章に初参戦するだけでも高いハードルがあるように思うが、染谷が挑んだハードルは、私たちが想像するものよりもずっと高いわけだ。兄の比呂人だけでなく、弟の多可人も未知子とは“特別な関わり”がある。だから彼女が対峙することになるのはこの兄弟だ。たしかにこういった特異な設定のキャラクターを登場させなければ、大人気シリーズの最終作として格好がつかないのかもしれない。けれどもこれを演じられる者はかなりかぎられるだろう。
比呂人も多可人もカリスマ的存在だが、ふたりともまだ若い。だから演じる者もまだ若い人物でなければならない。そしてもちろん、“一人二役”を実現できる演技者でなければならない。それに加えて、シリーズの“ラスボス”を務めるだけの貫禄ある者でなければならないーー。
このような役どころを務められる人物が、果たしてどれくらいいるだろうか。もし本作のキャスティング段階で、「比呂人/多可人を誰にオファーすべきか?」と相談を持ちかけられたら、私は「染谷将太」だと答えると思う。
子役期から演技者としての道を走り続けてきた彼ならば、経験値の豊富さは申し分ない。2024年は映画だけでも本作を含めて8本もの出演作が公開されている。しかも、リアルな日常を描いたものから、ホラー、ファンタジー、コメディと、ジャンルも多岐にわたる。10代の頃から作品の看板を背負うことも多かったからか、30代前半にして貫禄も十分だ。比呂人/多可人を染谷将太が演じるのは、必然的なことだったのかもしれない。