横浜流星も「戦いたい」と熱望 岡田准一とアクションで共演してほしい俳優たち
横浜流星が「岡田准一と戦いたい」と、テレビで発言したそうだ。対する岡田准一は、「なんでバディじゃあかんの?」と、X(旧Twitter)で呟いた。「やったろうやんけ!」とならないところに、大人の余裕を感じる。伝説の武道家である、合気道の塩田剛三先生の逸話を思い出した。「合気道で一番強い技はなんですか?」と聞かれた塩田先生は、「それは自分を殺しに来た相手と友達になることさ」と答えたという。
岡田准一と横浜流星は、共に藤井道人監督作品の常連である。横浜流星は、映画『正体』がまさに今公開中だ(2024年12月現在)。岡田師範も、藤井監督による侍バトルロワイヤルNetflixシリーズ『イクサガミ』の配信を控えている。岡田准一と横浜流星のバディ作品を藤井監督が撮るなら、これはもう傑作の予感しかしない。
だがバディを組む前に、お互いの実力を確認し合った方がいいだろう。そもそもこの2人の戦いなら、ガチであろうが作劇上のアクションであろうが、観たいに決まっている。
VS横浜流星
そもそもこの2人の戦いがなぜ面白いのか。それは、お互いのファイトスタイルが真逆だからだ。柔術黒帯の岡田准一はグラップラー(寝業師)、極真空手黒帯の横浜流星はストライカー(打撃屋)である。MMA(総合格闘技)の試合を観ても、あるいは昔ながらの異種格闘技戦を観ても、面白いのはこのパターンだ。
ワールドマスター出場、黒帯取得と、近頃は柔術家のイメージがもっとも強い岡田准一だが、打撃も一級品だ。だが、極真空手のタイトルホルダー相手となれば、いささか分が悪い。
極真を代表するフルコンタクト空手のルールは、「顔を手で殴ってはいけないが(ボディはオッケー)、蹴るのはオッケー」というルールが一般的だ。つまり、パンチで相手を倒すことが難しい分、上段への蹴りが発展した。一流選手の上段蹴りは、初見ではまずかわせない。筆者も昔、極真空手の日本代表選手とスパーをしたことがある。開始数秒で、気がつくと倒れて天井を見上げており、かたわらに折れた前歯が転がっていた。なにも見えなかった。その蹴りには感動したが、差し歯代は痛かった。
特に横浜流星が戦っていたジュニアのフルコンタクト空手は、上段蹴りが綺麗に当たればポイントになる(大人の試合は、ダウンを取るか明らかに効かさないとポイントにならない)。そのためジュニアには、上段蹴りを当てることに特化した選手が多い。ただ、その分蹴りが軽いというパターンも多い。だが現代の横浜流星は28歳である。ジュニア選手の顔を蹴るテクニックにしっかり大人のパワーが加われば、それはもう、一撃必殺かつ命中率の高い兵器である。
またフルコンタクト空手の選手は、ルール上顔面パンチに不慣れという弱点があるが、横浜流星はボクシングのプロライセンスも取得している。はっきり言って、打撃に関しては穴がない。打撃勝負は、岡田准一にとってはリスクが大きすぎる。
だが逆に寝技に持ち込めば、ほぼ100%岡田准一の勝ちである。ブラジリアン柔術は帯制度のある武道・格闘技の中で、もっとも黒帯を取ることが難しい競技だ。「芸能人だから」という忖度で、帯をくれることもまずない。柔術黒帯の寝技は神の領域だ。岡田准一は、神の世界に足を踏み入れているのである。筆者も、柔術黒帯の方と何度か寝技スパーをしたことがあるが、完全におもちゃ扱いされる。向こうがその気なら、1回のスパーで10本ぐらい骨を折られているだろう。
この戦いは、映画としてのアクションではなく、ガチの試合として観たい。だが日本映画界の宝である2人に、なにかあっては一大事である。せめて藤井道人か原田眞人が、この2人の戦いがクライマックスとなる映画を撮ってくれないものか(そして続編からバディになる)。
VS伊澤彩織
いざ横浜流星戦が実現してしまったら、欲が出てきてしまうのが人間というものだ。「岡田准一と戦わせてみたい!」と思う俳優は、他にもいくらでもいる。まずその筆頭が、伊澤彩織だ。
彼女は、傑作ガールズアクション『ベイビーわるきゅーれ』(以下、『ベビわる』)シリーズの金髪のほう、深川まひろ役でブレイクした。今もっとも説得力のあるアクションができる女性俳優だ。もともと、『キングダム』シリーズや『ジョン・ウィック:コンセクエンス』(2023年)にも参加した、世界的なスタントパフォーマーである。その彼女を俳優として表に出した、監督の阪元裕吾は偉大だ。
『ベビわる』シリーズにおける彼女は、社会にはうまく馴染めないが、一流の殺し屋である。『ザ・ファブル』シリーズにおいてファブル/佐藤アキラを演じる岡田准一と、似てなくもない。お互い、失礼ながらあまり体は大きくない。だが、それを補って余りあるスピードがある。
伊澤演じる深川まひろも、横浜流星と同じくストライカー寄りだ。だが、彼女はボクサータイプである。ピーカブースタイルで頭を振りながら前に出るさまは、マイク・タイソンか幕之内一歩のようだ。
だが、彼女の最大の武器は下からの頭突きである。これは大変理にかなっている。彼女はパンチが得意だが、やはり女性のパンチでは、なかなか屈強な男性を倒すには至らない。拳が小さいからである。パンチ力=スピード×質量だ。硬い裸拳よりも柔らかいが重さのあるグローブを着けた方が効くのは、この理屈である。いくらスピードがあろうとも、女性の小さな拳では大ダメージには至らない。だから代わりに頭を使う。人間の頭部は約5㎏ほどの重さがある。そして、頭蓋骨は硬い。ボーリング球で殴るようなものである。
このまひろと『ファブル』のアキラが似ていると書いたが、違う点が一つある。アキラは、表情を変えず淡々と「仕事として」殺しを行う。これは、相手が強かろうが雑魚であろうが一緒だ。一方まひろは、相手が強い場合、自然と笑みがこぼれる。強者との戦いを、楽しんでしまう。あまつさえ、シンパシーのようなものまで感じてしまう(最後は殺すが)。
アキラと戦ったら、まひろは必ず笑うだろう。シンパシーを感じるだろう。そのとき、アキラは笑ってくれるだろうか。
VS池松壮亮
各作品で繊細な芝居を見せてくれる若き名優の彼が、この場にいることを意外に思う方もいるかもしれない。そう思うならば、2024年に公開された『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』(以下、『ナイスデイズ』)を観てほしい。2度に渡る伊澤彩織との戦いは、筆者が今年観たアクションの中で、ダントツのナンバー1だ。彼は、アクションも超一流だ。
『ナイスデイズ』で彼が演じた冬村かえでは、『ベビわる』シリーズ最強の殺し屋だ。あのまひろに、1度目は勝っているのである。ファイトスタイルも無駄がなく、かつえげつない。足を踏んでから殴る。鼓膜と三半規管を壊す、耳への掌底。高速のパンチ連打に、たまに貫手(指先での打突)が混ざる。目や喉を狙っているのだろう。
極めつけは、まひろ得意の頭突きをかわしての、上から叩き落とす頭突きだ。そのままサンドイッチして、相手の頭部を地面に打ちつける(このシリーズは、本当に頭突きの描き方が素晴らしい)。岡田師範得意の低い高速タックルも、この冬村かえでなら、上からの頭突きで叩き落とすかもしれない。
この2人は、以前『散り椿』(2018年)という作品で共演している。そのときの岡田准一は、まるで往年の三船敏郎のようなオーラをまとった侍だった。対する池松壮亮は、まだまだ成長過程の若侍だった。あれから6年たった今、池松壮亮は、その成長を見せつけることが出来るだろうか。