『モンスター』が投げかける既存の価値観への疑問 ドラマ終盤の舞台は群馬へ
『モンスター』(カンテレ・フジテレビ系)第9話は、私たちの価値観に一石を投じる内容だった(以下、ネタバレあり)。
粒来(古田新太)と闇バイト組織の指示役キング(丸藤慶治)の接点が気になった亮子(趣里)は、過去に粒来が関わった事件に着目する。休暇を取って訪ねた先は美術館。通称“呪いの絵”と呼ばれた一枚の絵をめぐって、場面は23年前に飛んだ。
IT長者の成沢(渡邊圭祐)が画商の岡村(松田陸)から買ったゴッホ作『ひまわり』の連作。世紀の大発見としてもてはやされたのもつかの間、贋作として非難を浴び、成沢は岡村を訴えた。岡村の代理人が粒来こと神波春明だった。
岡村は故人で画家の市原から絵を買い取ったが、きっかけは市原の妻で絵画修復師の詩織(佐藤玲)に頼まれたことだった。鑑定士たちは絵を本物と認め、国立美術館で開催されるゴッホ展に出展されたことで絵の価値は跳ね上がる。岡村と接点のあった成沢は140億円という大金で絵を購入した。
しかし、絵が贋作でないかという疑惑は鳴り止まず、芸大教授の永山(工藤俊作)が贋作と断定したことで、修復師に世間の注目が集まった。詩織は世間の目を恐れたが、そこには永山との因縁もあった。詩織を守りたい岡村は粒来に相談し、粒来は一計を案じる。
ゴッホの専門家である永山の信頼を失墜させ、世間の関心を集めること。贋作かどうかにかかわらず、絵そのものに新たな価値を持たせる。粒来がやったことは、メディアを使った情報操作の側面があった。結果的に絵の価値を引き上げたことで、成沢は訴えを取り下げた。
価値というものの本質について考えさせられた。それ自体に元から価値があると考えるか、権威があるものが認めることで価値が生まれると考えるか。金銭で表せるものとそうじゃないものもある。「ただの絵なのに、様々なラベルが貼られた」と亮子は言う。法的な評価と世間の評価のギャップを粒来は衝いたわけだが、価値相対主義的な態度といえる。もし、絵を描いたのが市原で詩織がそれを知って100億を手にしていたなら、詩織自身も詐欺罪に問われる。価値あるものを弁護士は守るが、その価値が本当に信じるに値するかを鋭く問いかけた。