『モンスター』“カンテレ史上最年少プロデューサー”に聞く、異色キャラが生まれた背景

『モンスター』加藤春佳Pが語る制作秘話

 弁護士の神波亮子(趣里)が現代の闇に斬り込む『モンスター』(カンテレ・フジテレビ系)。カンテレ史上最年少のプロデューサーとして、今作が初の連続ドラマプロデュース作となる関西テレビの加藤春佳プロデューサーに、異色のキャラクターが生まれた背景やプロデューサーとしての意気込みを聞いた。(石河コウヘイ)

「亮子(趣里)が魅力的に映るドラマにしたいと思っていた」

――『モンスター』毎週楽しく拝見させていただいています。ここまでの反響はいかがですか?

加藤春佳(以下、加藤):第1話から良い反響が多かったです。趣里さんが演じる神波亮子が魅力的で、現代の問題や事件と共通する題材を扱っていることを評価してくださる声が多いですね。それと、裁判で勝ったからそれで解決ではなくて、その先が描かれているのが良いとおっしゃってくださる方もいて、そこは意識しているところなので、ちゃんと受け取ってくださっていると感じます。『モンスター』というタイトルの意味も考えながら観てほしいと思って作っているので、その点も念頭に置いて感想を送ってくださるのは、すごくうれしい反応です。

――趣里さん演じる神波亮子は天才肌の弁護士ですが、キャラクター設定にこだわりはありますか?

加藤:亮子は、特に天才というわけではなくて。よくある瞬間記憶能力みたいなものを持っているわけでもなくて、ちゃんと資料を読んでいますし。亮子は基本的に手ぶらの設定ですが、スマホでメモや調べ物をして、ジェシーさん演じる杉浦が持ってくるという裏設定もあります。そういう描写はドラマではあまり描かれませんが、亮子がなんでもできるかというとそうではないです。自分が気になったことに対して、どんなことにもあらかじめ意味を見出して臨むわけではなく、感覚的に動き出しているのが亮子ですね。だから、急に「行ってきます」みたいな感じで出て行ったり、自分から動く行動力は優れていると思います。幼い頃から父の粒来(古田新太)と二人で暮らして、粒来の裁判を傍聴しに行くことも多く、学校で過ごすよりそっちのほうが楽しいと思ってしまったんですね。六法や過去の判例を読み、人間観察を通して蓄えられた経験によって法律家の素質が開花したという設定です。動物的なところがあるキャラで、理性や常識で動く人でもなくて、自分の動く範囲をあらかじめ決めている人でもないという人物造形ですね。

――「動物的」という言葉が腑に落ちました。亮子とコンビを組む杉浦はどんなキャラクターでしょうか?

加藤:亮子が魅力的に映るドラマにしたいと思っていたので、なるべく普遍的で視聴者目線に立つ人として生まれたキャラクターが杉浦です。亮子は杉浦を馬鹿にしているわけではなくて、杉浦の反応を無邪気に楽しんでいます。日々接する相手で、よくあるバディとは違いますが、亮子がいろんな場所に行って、ときに迷惑をかけることもあるので付き添っている感じですね。

――杉浦を演じるジェシーさんは、制作発表のときも共演者からいじられていましたが、今作では抑えた“受け”の芝居が新鮮です。

加藤:なんと言うか、まっすぐなレールの上を歩いているのが杉浦で、亮子はレールなんか無視して駆け回っているイメージでしょうか。「弁護士はこうあるべき」というものを教えられて、その通りに生きてきたのが杉浦で、自分から逸脱しようとはしないです。ただ、まっすぐ歩いている人って、視点を変えれば面白いじゃないですか。「ここはまっすぐ歩かなくてもいいのに」みたいな場所も「まっすぐ歩くんです。僕は」みたいに、はたから見たら茨の道だと思うところを進んでいくのが杉浦の魅力だと思います。その様子を微笑ましく見ている村尾洋輔(宇野祥平)・由紀子(音月桂)夫妻がいて、愛にあふれた空間が事務所内に生まれていると思います。

――大草圭子法律事務所は、村尾夫妻がパラリーガルをしていたり、亮子も合格後にゲーマーをしていた異色の経歴の持ち主で、自由な雰囲気とキャリアの多様性を感じました。

加藤:所長をYOUさんが演じられることが決まったんですが、YOUさんがスカウトしそうなメンバー構成になっている気がします。事前取材で、パラリーガルは転職してこられる方が多くて、前職がCAのような法律とかけ離れた職業の方もいらっしゃると伺いました。洋輔は司法試験に挑戦していた過去があり、由紀子は一般企業に勤めていたという設定です。夫婦でパラリーガルとして働くことに所長の圭子(YOU)は寛容で、亮子を受け入れることにもちゅうちょがなかったんです。小さい頃から亮子を知っていて、それは粒来への信頼感も手伝っているかもしれません。杉浦みたいなまっすぐな人間にも面白さを感じて、かわいいと思ってくれていると思います。

初プロデュースにあたって考えたこと

――加藤さんは今作が初プロデュース作品です。オリジナル作品を企画するにあたり、どんなことを考えましたか?

加藤:初めてということもあり、先輩のプロデューサーや弊社の三宅喜重監督がついてくださって、私としてはすごくやりやすい環境でした。月曜22時枠のプロデューサーとしてデビューさせていただくことになった時、特に言われたわけではないんですけど、縮こまったことをする必要はないんだろうと思いました。扱う題材は、現代の問題に近いものにしたいと思っていて、あまり触れられてこなかった題材やタブーにチャレンジしたいと思いました。第3話の精子提供は普段の会話で耳にしない言葉ですが、取り上げることに意味があると思って挑戦しました。第5・6話の代替医療に対しても様々な考え方があります。何が良くて、何が悪いという話をしたいわけではなく、怖い部分もありますが、あえて取り上げてみたのは私が若いからかもしれません。

――第2話はAIによる盗作を取り上げていました。各話のテーマに対して入念にリサーチした上で果敢に斬り込んでいると感じました。

加藤:ありがとうございます。AIもそうですし、第7話ではドラマ制作の闇を描きました。私自身、テレビ局員になってまだ日が浅いのですが、ドラマの聖地巡礼のイベントをやっていたり、グッズで収益を上げることは実際にあります。それ自体が悪いことではありませんが、そのことで一人の人の人生が狂っていくこともあるんじゃないかと思いました。今作で一緒にプロデュースを担当している大塚安希プロデューサーも私と年代が近く、彼女から聞いた“推し活にハマっている友人の話”がヒントになりました。若い世代だからこそ知り得る情報がヒントになっています。

――今作のディテールの細かさは実体験に由来しているんですね。作品としても、何が正義で何が悪かをジャッジする前に、きちんと事象を描いていくスタンスに見えます。

加藤:何が良くて、何が悪いかを問うのは簡単ではないと感じています。亮子自身、ちょっとグレーっぽいこともしていますし。第1話でアルバイトとして相手方の会社に潜入しましたが、履歴書を書いて選考に通っているものの、弁護士倫理的にどうかという部分もあります。そういった弁護士としてはタブーに見えそうなことも気にせず進んでしてしまうところがあるので、彼女はいわゆる“正義”を叫んだりはしない人物なのかなと。亮子は是非を問いたくて生きている人ではない気がしているので、その微妙なニュアンスは意識していますね。

――最後のジャッジを視聴者に委ねている感覚でしょうか。

加藤:そうですね。亮子はゲーム好きの顔もあるので、もちろん裁判では勝ちに行くんですけど、審判が下っても解決していない部分があることは提示しています。裁判に勝っても負けても、その人の人生が終わるわけではないですし。その事実をどうするということではなくて、自身の気づきとして吸収するのが亮子だと思います。趣里さんとの会話で、亮子は10年くらいあまり家から外に出ていなかったこともあり、弁護士になってから人と接するうちに人間との交流が楽しくなってきているかもしれない、というお話はありましたね。亮子は大きく変化していくタイプの人間ではありませんが、演じる趣里さんのお芝居として、人と接することを楽しむ部分が育っている気がします。

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